私の視点 観光羅針盤
ミシュランのレストラン格付けに関する最新動向をこちらで紹介した。宿泊体験に焦点を当てた「ミシュランキー(MICHELIN Keys)」の2025年最新版が発表されており、宿泊施設の傾向もひも解いてみたい。日本では2024年に初選定が行われ、今年2025年にその第2弾が発表された。評価は3段階(One/Two/Three Key)で、単なる高級さやブランド力ではなく、「その場所でしか得られない体験価値」を基準とするのが特徴だ。
今回の更新で、日本のキー認定ホテルは合計108軒から128軒へと大幅に拡大した。内訳は、Three Keyが6軒から7軒へ、Two Keyが17軒から20軒へ、そしてOne Keyが85軒から101軒へと増加している。都市部の国際ブランドホテルのみならず、地方の温泉旅館や小規模リゾートにも選定が広がったことが、最大の特徴といえる。
注目のポイントとして、伊豆の老舗旅館「あさば」がTwo KeyからThree Keyに昇格した点は象徴的だ。創業500年を超えるこの宿は、能舞台が池の上に浮かぶ庭園を有し、伝統文化と宿泊体験が融合している。まさに「地域の歴史・自然・美意識を一体化した空間」が評価された好例だろう。
新規認定でも地域の広がりが見られる。2025年版では、箱根の「エスパシオ箱根迎賓館 麟鳳亀龍」、石川・能登島の「一 能登島」、広島の「SIMOSE ART GARDEN VILLA」、大分の「由布院 玉の湯」、鹿児島の「妙見石原荘」など、地方文化や自然資源を生かした宿が続々と登場している。また、都市部では「フェアモント東京」「パティーナ大阪」「フォーシーズンズホテル大阪」など、海外ブランドの日本初進出も評価対象となり、国際的な宿泊競争の新たな舞台が整いつつある。
これらの昇格・新規の共通点は「建築・サービス・地域性・体験価値」の総合力にある。ミシュランは今回、施設の豪華さよりも“その土地ならではの時間を過ごせるか”を重視しており、地域文化や風土を取り込んだ宿が高く評価されている。すなわち、宿泊が「地域文化の入り口」になるかどうか、この価値文脈が加速しているといえるだろう。
今後の展望としては、地方旅館や中規模リゾートが、地域の自然や伝統工芸、食文化をストーリー化して宿泊体験に組み込む動きをさらに強めていくことだろう。観光の消費が「モノ」から「意味」へと移行するなかで、その地域の価値を最も体感できる舞台としての機能がより求められていくのは明白である。自治体やDMOにとっても、ミシュランキーの獲得は単なる格付け以上に「地域ブランドの証」としての活用が期待できると考えている。
旅人が求めるのは“どこに泊まるか”ではなく、“なぜそこに泊まるのか”に移っている。ミシュランキーの獲得が目的ではないものの、欧米系の目線で評価される地域の代表格の宿があることは地域の評価を底上げしていけることである。獲得施設は文化との接続を加速させ、地域全体でも宿を含めて積極的展開で滞在時間増への好循環を期待していきたい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)




