【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 759】実行力を生むアクションプラン実践法(3) 青木康弘


 アクションプランの骨格が整ってきた段階では、旅館・ホテルのコンセプトを明確に掲げることが、具体化作業を進める上で極めて重要となる。コンセプトは、各施策の優先順位を判断する軸となり、現場の迷いを減らし、意思統一を促す役割を果たす。

 策定にあたっては、まず自館の立地条件、施設規模、競合状況、既存顧客の特性、保有する強みや課題を整理することから始めたい。そして、今後の経営環境の変化も踏まえながら、どの市場を主たるターゲットに据えるのか、提供価値をどう定義するのかを検討する。

 たとえば「オーシャンビューのファミリーリゾート」というコンセプトを掲げた場合、料理、内装、ユニフォーム、設備、サービス内容まで自然と方向性が導かれていく。料理は3世代が楽しめる内容を目指し、内装は開放感を演出し、ユニフォームにはリゾートらしいカジュアルさを持たせる。館内で長く過ごす宿泊客を飽きさせない遊び心ある設備も投資候補となる。さらに、スタッフが中心となって海や自然を活用したアクティビティを自ら企画するアイデアも生まれてくるだろう。

 こうしたコンセプトの策定は、単なるキャッチフレーズにとどまらず、日々の現場運営を具体化するための羅針盤となる。現場での意思決定を迷わず進めるうえでも役立つ。たとえば営業戦略を検討する際、「インバウンド重視か個人客重視か」といった単純な対立では整理しきれない場面が多い。

 現在は国内外問わず旅行市場の中心は個人客へと大きくシフトしており、個人旅行客の獲得が安定収益化の鍵を握る。とはいえ、繁忙期には高付加価値の個人客を優先し、閑散期には団体需要やインバウンドを柔軟に活用する、といったバランス運用が現実的である。この整理をスムーズに行う上でも、あらかじめ明確なコンセプトが定まっていることが大きな助けとなる。

 コンセプトを掲げることで、スタッフが主体的に提案や改善を行いやすくなる点もメリットとして大きい。「何を目指しているのか」が共有されていれば、現場の工夫が的外れになりにくく、組織全体の自走力が高まる。アクションプランの策定は単なる計画づくりにとどまらず、現場を動かす仕組みづくりそのものである。

 このようにコンセプトの明確化は、アクションプランの整合性を高め、現場の実行力を引き出す原動力となる。事業再生を目指す経営者はもちろん、次の成長を志向する経営者において欠かせない視点である。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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