宮嶌氏
DMOと観光協会と行政
明確な役割分担と連携を
今年になっても冷めやらないインバウンド熱。訪日外国人旅行者は過去にもまして拡大し、「オーバーツーリズム」という言葉も日常的に聞かれるようになりました。2025年の訪日客数は過去最高を更新すると見込まれ、政府が掲げる2030年6千万人の目標に向けて、観光業界全体が熱気を帯びています。
しかし一方で、私たちが活動する山形県米沢市では、外国人旅行者の伸びは微増にとどまり、全来訪者のうち1桁台前半にすぎません。円安を追い風にインバウンドは確かに国家レベルの稼ぎどころとなっていますが、その恩恵を受けられる地域は限定的です。
別の視点で見れば、20兆円を超えるといわれる国内旅行市場にも課題が見えてきます。かつて多くの旅行者が訪れていた地域がオーバーツーリズムで「行きにくい場所」となり、国内旅行者に響く新しい提案が減少しているように感じます。さらに言えば、地域の側から国内旅行者に向けた“営業熱”が冷めてきている印象があります。本来、行政や観光協会、民間事業者が熱意を持って進めるべき国内向けのプロモーションやコンテンツ造成が、インバウンドという大義のもとで後回しにされているのが現状です。
しかし「猫も杓子(しゃくし)もインバウンド」では、地域は生き残れません。特に米沢のように小規模旅館が多く、歴史や文化といった“ハイコンテクスト”な魅力を持つ地域では、海外の方すべてにその価値が伝わるわけではありませんし、そもそも伝えること自体に高いハードルがあります。それでも「いまはインバウンドの時代だから誰かがやるだろう」という空気が漂っている。けれど、他力本願では地域は浮上しません。地域のすべてのリソースを総動員しても、ようやく持続の道筋が見えてくるのが現実です。
私の考える理想の形は、地域内での明確な役割分担と連携です。たとえば、DMOが海外や新市場など高コスト領域の開拓を担い、観光協会が県内外の近距離マーケットを担当し、行政が広域連携や基盤整備を進める。こうした機能分担を前提に、各主体が能動的に連動してこそ、地域観光の多様性と多層性が生まれます。重要なのは「誰がどの機能を担い、何を目的とするのか」を明確にし、その基盤を整えること。そして、そのかじを取る存在こそがDMOだと考えます。データ分析や戦略設計を通じて地域全体の方向性を示し、多様な観光の可能性を同時に育てる。インバウンドか国内かという二項対立ではなく、地域の特性に根ざした多様な観光のかたちを描けるかどうか。そこに、これからの地方観光の生存戦略があると確信しています。

宮嶌氏




