国際観光施設協会
旅館を設計していると設備の維持管理について頻繁に相談を受ける。設備について先代から情報やノウハウが十分に伝わっていないのと、管理担当者も入れ替わるからだ。設備管理は、(1)稼働している機器を正常に保つ日常管理(2)水光熱使用量を適正にするエネルギー管理(3)故障を事前に防ぐ予防医療に当たる管理―の三つに分けて考えられる。
今回は予防管理について考えてみたい。高度成長期の建物は築50年を超え、バブル期に建てられた施設でも築30年を経過し、いずれも設備の更新時期に来ている。エアコン、給湯器、ポンプなどの可動部を持つ機器の耐用年数は15年前後と短く消耗品的で、可動部のない設備配管や受水槽、変電設備や幹線は更新周期が30年前後と長く、日常的に故障も少ないが、それでも耐用年数はある。
設備管理を人体になぞらえると理解しやすい。後期高齢者の私は、高血圧、前立腺肥大で定期的に病院に通い、脊柱管狭窄(きょうさく)症で整形外科に行く。かかりつけ医にはカルテがあり、年に1回は健康診断を受ける。日本人の健康寿命は、男子73歳、女子75歳で、健康寿命を伸ばすためにいろいろと気を使っている。宿泊施設も30年、50年経過すると健康寿命を過ぎるので健康管理が重要になる。
下記に示す某旅館の設備機器のカルテには、機種、形式、容量、設置場所、設置年月日、耐用年数、経過年数、対策の欄があり、各機器にはランクが付けられる。緊急対応が必要な機器がSランク、1年以内の対応がAランク、以下B、C、Dランクと5段階ある。これにより5年、10年、15年の長期改善計画を立てている。
高齢者のような建物には設備カルテがあると故障を事前に察知して先手が打てる。更新時期のポンプ類は予備を準備しておき、耐用年数を超えた機器は見回りの回数を増やす。エネルギー効率と補助金で費用対効果を考慮して稼働していても交換を検討する。日本人の死亡率1位がん、2位老衰、3位脳血管疾患で老衰以外は予防医療で救えるといわれている。
管理上の判断にはカルテと同時に毎日の水光熱費の計測データが必要になる。メーターを目視で読んで記録するのを、パルス発信のメーターからデータを飛ばし方式に変更すると、エクセルで有効なデータが簡単に得られる。日常的な設備管理だけでなく、省エネといった生産性向上に関わる目標があるほうが社員のやりがいにもつながる。骨格が構造、内臓が設備に当たり、循環器系を健全に保つことは建物の持続可能性を高める。攻めの設備管理は重要と日頃から思っている。
(国際観光施設協会理事 エコ・小委員会委員長、日本建築家協会登録建築家、佐々山建築設計会長 佐々山茂)





