上海経由で中国南部の貴州省で暮らす友人を訪ねる旅をした。乗り継ぎ地の上海空港に着き、国内線ターミナルに向かったところ、空港職員が何やら説明していた。筆者は中国語が全く分からない。ただ、ざわついた雰囲気から問題が生じているらしいことが感じられた。貴州行きの便が天候悪化で飛ぶかどうか、その時点で分からないとのことだった。もし一人旅であったらば途方にくれたことだろう。
幸いなことに、今回は東京から中国人の友人が一緒だった。彼が尋ねてくれると欠航の可能性が大きく、その場合は航空会社がホテルを用意してくれるという。そのために手続きカウンターは長蛇の列で、幼い子ども連れの日本人の若い夫婦がどうなってんだと大声で詰め寄っていた。
欠航が決まり、手続きに1時間半。荷物が出てくるまでも時間がかかった。それからバスでホテルへ。翌日昼前に無事貴州にたどり着いた。一連の手続きの際、中国人の友人の助けは大げさに言うと「地獄で仏」。彼に後光が差しているように思えた。
今はスマホの翻訳アプリが優れていて、音声入力で日本語から中国語へあっという間に訳してくれるし、相手も中国語で入力し、日本語が表示される。しかし、それはあくまで簡単な内容に限られるし、複雑な用件だとこちら側が的確な文章を入力できるかも怪しい。10年ほど前モスクワの空港で日本行きの飛行機が8時間ほど遅れた。当時はスマホ翻訳がなかったので、事態がどうなっているのか皆目分からず、空港ロビーで不安な気持ちで過ごしたことを覚えている。
これを逆の立場で考えてみよう。現在多くの外国人観光客が日本を訪れている。4月は単月としては、過去最高の390万人強を記録したという。彼らが列車や航空機の遅延、欠航にあった時、どのくらい不安になるか、今回の上海空港で改めて痛感した。
また、地震にあったことがない外国人は多いはずで、事前に日本は地震が多いと聞いていても、実際に建物が揺れた場合、その動揺はいかばかりか。
最近では、自然災害などの緊急事態に備え、外国人にも迅速に、かつ的確に情報が伝わり、速やかな避難ができるよう対策が講じられているが、果たして万全なのだろうか。
一般財団法人自治体国際化協会は、阪神大震災を機に、外国人向けの災害対策の必要性が高まったとしており、地域の実情に応じて情報を把握するよう努めるべきと指摘している。自治体によっては、英語をはじめ、中国語、韓国語などによる災害情報を発信できるように体制作りを進めている。
ただ、日本で暮らす外国人と訪日外国人観光客では事情が異なる。今後、増えるであろうアジア圏の人たちが、すべて英語を理解しているとは限らない。
英語は最低限で中国語、韓国語は案内があるケースが多いが、タイ、ベトナム、インドネシア語などまで準備万端というわけではないはずだ。
読者の皆さんの土地や観光施設、ホテルや旅館で、外国人を対象とした避難対策はどうなっているのだろうか。筆者が身を持って体験した不安な気持ちをお伝えしてインバウンド対応の一助にしてもらいたい。
(日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)




