【一寸先は旅 人 宿 街 39】その日本語、外国人が分かる? 神崎公一


 前回は筆者が中国上海で国内便が欠航した際、困った言葉の問題をお伝えしたが、今回は、訪日外国人にいかに日本語を理解してもらうかについて考えてみた。

 この4月から留学生相手に観光関連の講座を受け持っている。学生の国籍は中国2人、アメリカ、モンゴルがそれぞれ1人だ。ある日、訪日外国人が日本国内の旅先で地震に遭遇した時にどのように伝えるかというテーマで話した。英語や中国語で的確に伝えられればベストだが、そうもいかない。

 緊急時に日本語で災害・避難情報が発せられた時を想定して説明した。すると、留学生の1人から、その意味が分かりませんと言われてしまった。分からないことは、そのままにせず、納得できるまで質問してくる姿勢も彼らの特徴の一つだ。

 筆者は次の例を示した。「大地震が発生しました。頭上に注意し、直ちに避難してください。津波の襲来の恐れがあるので高台に向かってください」。

 多くの日本人にはこれで十分、何の違和感もなく理解できるだろう。留学生たちからは、もっと分かりやすく伝えてほしいと訴えられた。授業は日本語で行っている。日本語学校で学んだうえで、この学校に来ているので、基本的な日本語の会話と読み書きはできる若者たちだ。

 前記の地震情報をできるだけ分かりやすく言い換えてみた。「大きな地震が起きました。天井から照明器具などが落ちてくるかもしれないので、すぐに逃げてください。津波も来る可能性もあるので、高い場所に逃げてください」。こんな感じだろうか。

 私たちが当たり前のように使っている日本語は、外国人にとっては難しい場合もあるのだろうなと、この日の授業を通じて改めて思った。日本人の若者相手の授業でも、分かりやすい言葉で話すことは言うまでもない。

 話を外国人に戻す。こうした場合、スマホの多言語翻訳アプリなどを使う手もある。アメリカ人ビジネスマン相手に日本語でスピーチした時、聴衆の1人が「あなたの話の内容はだいたい理解できた」と言った。日本語がよほど達者なのかと尋ねたら、アプリを駆使したのだと明かしてくれた。

 しかし、誰もがアプリを使いこなせるわけではない。日本人を含め、周囲があわてふためいている状況で、外国人旅行者が自国語で災害情報などを理解するのは、なかなか難しいのではなかろうか。

 そんな折、観光庁をはじめさまざまな省庁や自治体、民間団体が優しい日本語の普及に力を入れていることを知った。

 訪日外国人も対象とするが、在日外国人に向けてもさまざまな取り組みをしている。自然災害時や病気やケガで受診した時の医療機関側の説明などをいかに優しい日本語に言い換えて伝えられるか。医療や介護では専門用語も多く、日本人のわれわれでも説明してもらわなければならないケースもある。

 2025年の訪日外国人は4千万人に達する勢いだ。旅行先がまだ東京や大阪、京都などに集中しているとはいえ、少しずつ地方への周遊も増えている。

 全国どこを旅しても、言葉の壁を少しでも低くすることが欠かせない。

 (日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)

 
 
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