三ツ野氏
地域を支える”観光”でありたい
”嬬恋村”と聞くと、小学生の頃に教科書で見た「キャベツの産地」や、「フォークソングの聖地」を思い起こす方がいるだろう。しかし、後者は静岡県掛川市にあったヤマハリゾートつま恋で開催されていたイベントから着想されたもので、私たち「群馬県嬬恋村」は全く異なる。
むしろ、村名の由来となった英雄ヤマトタケルの伝説からインスピレーションされた「愛妻家の聖地」として、「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ(通称・キャベチュー)」と呼ばれるイベントや、「神話に抱かれる天空の癒し湯」と言われ、「にっぽんの温泉100選」のベスト30常連でもある万座温泉、さらには日本一と名高い「キャベツ」やその畑と上信越高原国立公園によって見るものを魅了する絶景、本来であれば観光地としての認知がもっとあっていいのかもしれない。
このポテンシャルが「世のため人のため、人生楽しく」をモットーにする私を駆り立て、2016年に移住を決意させた。お隣の軽井沢や草津温泉、さらには善光寺や八ッ場ダムにもアクセスが容易で、標高1800メートルの万座温泉では良質のパウダースノーを堪能でき、パルコール嬬恋リゾートのゴンドラは関東一の長さを誇るなど関東ながらスキーを楽しむことができ、大自然の雄大なスケールで移ろう春夏秋冬の色彩グラデーション、さらには東京に近くインバウンド需要も見込める、よりどりみどりの観光素材で多くの方の人生を明るく楽しく彩ることができるだろう、そう思った矢先の2019年台風19号の大規模土砂災害と未曽有のパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスだった。さらに足元を見れば、1993年の来訪客300万人をピークに減退の一途をたどっており、当時はスキーや別荘のブームで盛り上がっていたであろう地域は疲弊していた。
「何のために、観光協会があるのだろう」と改めて、考えさせられた。移動が制限され、マスク越しで見えない素顔、笑顔がなくなり身も心も重たい。やはりたくさんの土地を訪れ、幾多の人に出会い、いろいろな体験をする、これらによって訪れる人たちは笑顔になり、また受け入れる人たちも元気になれる、これが観光の醍醐味(だいごみ)であり、観光協会は地域と一丸になってこのサイクルを回していくための歯車になる必要がある、その想いを胸に、JR吾妻線の存続危機や万座温泉スキー場の大規模盗難、コスト高によるキャベツ産業の先行きなど、多くの課題を抱えるなか、”観光”が果たす役割を全うしていきたい。

三ツ野氏




