千葉氏
東京都と淑徳大学の連携事業・令和7年度「自然資源を活かした観光経営人材育成講座」は今年、実践的学びとして「尾瀬ネイチャー体験」を新たに導入した。昨年、好評だった日帰りフィールドワークみたけ山(東京・青梅)から一歩、踏み込んだアドバンスコースの有料講座である。
2班、各13人の小パーティーで1泊2日、初秋の尾瀬を目指した。本紙10月6日付(3286号)の記事にも紹介されたから、記憶に新しいだろう。宿泊は、東京パワーテクノロジーが所有・運営する山小屋「至仏山荘」。ハイク前には、鳩待ベースに開業したての「LUCY尾瀬鳩待 by 星野リゾート」の施設見学会も行った。山小屋という施設のあり方についても造詣を深めた。
2千メートル級の山々に囲まれた広大な高層湿原は、草紅葉(くさもみじ)で秋色に染まり始め、池塘(ちとう)には華憐(かれん)なヒツジグサが息をひそめる。尾瀬の生態系をはじめ木道の管理や尾瀬の歴史などを、ベテランガイドから丁寧に教わりながら散策した。講座責任者として、多くの関係者の皆さまには、この場を借りて御礼申し上げる。
さて本講座は、数々の有識者・プレイヤーの協力のもと、最前線での知見が得られるよう構成している。なかでも注目されたのが、10月12日開催の2講座で、一つは横尾隆義氏による「里山の中で学ぶ・遊ぶ・泊まる 人気の廃校作り」。そしてもう一つは、会田均氏の「『沿線まるごとホテルSatologue』にみる地域課題を付加価値へ転換」で、2講座を同日、対面で実施した。
わかりやすく言えば、前者はマイナビ、そして後者はJR東日本という異業種大手が、過疎化が進んだ地域の再生に取り組むという事例紹介である。受講生たちは真剣な面持ちで、これら発表を聞き入った。
というのも、受講生は観光業以外の業種の人が少なくない。主催側としては、意外でもあった。ここに属性を詳細に明かすことはできないが、物流や不動産、アパレル、士業もいる。企業の社会的責任として、これから地域への取り組みを始めようとする参入予備軍もいる。すでに調査に入っているもの、試行錯誤しているケースもあり、講座内容は興味を引いたようだ。なので講座終了後の質疑応答は活発で、資金調達や契約形態、スタッフ要員の確保などなど内容も多岐にわたった。
インバウンドだけに頼るのではない地域観光のあり方。そこに暮らす人たちのなりわいを尊重して、地域の持続的発展を促す。そのとき今ある資源を、いかに活用するか。知恵と行動力が求められている。今や地域創生事業は、新たな市場開拓の「一丁目一番地」という印象を得た。
フィールドワークも対面講座も、いずれも今年は「オフ会」を用意した。会場近くの”まち中華”は、飲み食べ放題で3500円とリーズナブルな店をチョイス。受講生も講師も教員スタッフも皆、実費の有料参加で、きれいさっぱり招待はない。さながら異業種交流会のように盛り上がった。社会人の講座は、飲みニケーションあってこそ。そうした和気あいあいのムードが、地域にも伝播することだろう。講座のみならず「飲み会責任者」としても、ご参加に深く御礼申し上げます。
(淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子)




