【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全74】「ありがとう」が生み出す好循環 孫田 猛


 「当たり前」と「ありがとう」。この二つの言葉、感謝の気持ちがあるかどうかという点で、まったく正反対の立場にあります。

 私たちはお客さまに対しては「ありがとうございます」という言葉が出てきます。なぜでしょうか。それは、お客さまが宿泊代を払ってくださるからです。

 では、反対にお宿がお金を支払っている相手は誰でしょうか。それは取引業者であり、従業員です。彼らは商品やサービスを提供し、その対価としてお宿がお金を支払う。だから、お金をもらう側が「ありがとうございます」と言う。支払う側は、契約という観点から見れば、当然のこととして受け止めます。

 さて、物事の大部分は、人と人とのかかわりの上で成り立っています。従業員は、縁あってあなたのお宿で働き始めました。この人たちの働きがあるからこそ、お客さまがお金を払ってくれます。もしこの人たちがいなかったら、あなたのお宿は成り立ちません。朝早くから料理を作り、客室を整え、心を込めてお客さまをおもてなしする。その一つ一つの行動が、お宿の価値を作り上げているのです。

 取引業者も同じです。良いものを提供し、良い仕事をしてくれるおかげで、直接的あるいは間接的にお宿が成り立っています。新鮮な食材を届けてくれる業者、設備をきちんとメンテナンスしてくれる業者。この人たちが良いパフォーマンスをしてくれなければ、お宿は回っていきません。

 ここで、経営者は大きく二つのタイプに分かれます。一つは、これらすべてを「当然」と思い、それ以上の感情を持たない経営者。もう一つは、「当然ではなく、とてもありがたいこと」だと感じ、感謝の言葉をかける経営者です。

 感謝の言葉をかけられると、相手はうれしいものです。自分の行いが人の役に立っている。そう実感できると、さらに良い仕事をしようという気持ちが生まれてきます。これは人間として自然な感情でしょう。

 さらに進んで、感謝の気持ちを言葉とともに「行動」で示す経営者もいます。たとえば、従業員には定期的に面接を行い、プライベートの変化に合わせて、働く時間帯や休日、仕事の内容などの変更を検討する。また、職場環境の整備や、スタッフの教養向上、資格取得のための予算を確保する。

 取引業者に対しては、支払い期日よりも早めに振り込みをする経営者もいます。これは契約上の義務ではありませんが、相手の資金繰りを助け、信頼関係を深める行動です。

 そして何より重要なのは、予期せぬ事態が起きたときです。急な人手不足、設備の故障、自然災害による影響等、思いもよらないトラブルが起こることがあります。そんなとき、日頃から感謝の気持ちを持って接してきた経営者のお宿では、従業員や取引業者が進んで助けてくれます。契約にはないことでも、「あのお宿のためなら」と動いてくれるのです。

 これは契約やバーター(交換)では説明できない関係です。人が気持ちよく、喜んで動いてくれるための環境を作る。そうすると、思いがけない良いことが起こります。

 今日1日、周りの人たちが動いてくれていることを「当たり前」だと思い、何の感情も湧きませんでしたか。それとも、感謝の気持ちが湧き出て、言葉に発し行動に移しましたか。

 感謝の気持ちはお宿にも、経営者であるあなたにも、好循環を生み出します。

 失敗の法則その73
 お宿が回っていることは当たり前だと思っている。
 その結果、感謝の気持ちが薄れ、お宿の雰囲気が殺伐となる。
 そこで、「ありがとう」と言葉に出し、感謝の気持ちを行動で示してみよう。
 https://www.ryokan-clinic.com

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒