JR美祢線に乗ったのは、10年以上前のことです。山口県の厚狭駅と長門市駅とを結ぶ路線で、昼ごろの列車に長門市駅から乗車しました。
単行のディーゼルカーで、車内はロングシート。ガラガラでしたが、当時のローカル線では珍しかった、外国人旅行者が目を引きました。30代くらいの欧州系の夫婦です。
「なんでこんなローカル線に乗っているのですか?」と筆者が尋ねると、「新幹線に乗るため」と答えます。萩から大阪に向かっているそうで、山陰線の普通列車で長門市に来て、美祢線に乗り換えて厚狭駅へ行き、山陽新幹線に乗る予定とのこと。
萩から新幹線に乗る場合、新山口駅までバスで出るのが一般的です。そのほうが早いですし、新山口駅なら「のぞみ」も停まります。なのに、なぜ時間がかかる美祢線で、「こだま」しか停まらない厚狭駅を目指すのか。尋ねると、「バス代がかからないから」と明かしてくれました。
ジャパンレールパスを使用しているので、鉄道なら乗り放題なのです。どうも、萩を訪れる外国人旅行者には、節約ルートとして知られていたようです。
その美祢線が、廃線の危機に立っています。2023年6月の豪雨で被災し、復旧されないまま2年が過ぎました。地元自治体とJR西日本が協議を続けてきましたが、先日の会議でJR側がバス高速輸送システム(BRT)での復旧を適当と評し、地元自治体も検討する姿勢を見せています。
BRTになった場合、鉄道は廃止されます。しかし、路線は全国のJRネットワークの一部として残り、運賃水準も鉄道と同じです。車両が列車からバスになる、という違いはありますが、利便性が極端に悪くなるわけではありません。
鉄道は駅しかカバーできませんが、BRTなら沿線に停留所を増やせますから、恩恵を受ける地元住民も多いでしょう。これからの人口減少時代に、バス運転士が不足するなか、JRが責任を持って地域公共交通の幹となる路線を維持してくれるなら、地域にとって悪い話ではありません。
BRTは鉄道よりダイヤの柔軟性が高まりますので、厚狭駅での山陽新幹線との接続が改善されるかもしれません。そうなると、新幹線で萩を訪れる旅行者も便利になるでしょう。
本当に廃止となれば、鉄道ファンには残念な話ですが、前向きな議論を期待したいところです。




