松山市の観光施策 アートの取り組み 温泉地の新たな魅力創出 野志克仁市長に聞く


野志市長

 道後温泉(愛媛県松山市)でこのほど、温泉街のシンボル「道後温泉本館」が全館営業再開して1周年を迎えるとともに、10月10日からアートプロジェクト「蜷川実花 with EiM × 道後温泉 DOGO ART」が開幕。松山市の野志克仁市長に同市の今後の観光施策について話を聞いた。

 ――道後温泉本館が7月11日に全館営業再開1周年を迎えました。観光客も順調に増えているようですが、この1年を振り返ると。

 国の重要文化財であり、道後のシンボルである道後温泉本館は、昨年7月に約5年半の保存修理を経て、全館での営業を再開しました。地元の皆さんをはじめ、工事に携わられた皆さんのおかげで、心から感謝を申し上げます。

 本館が全館営業再開した昨年、松山市を訪れた観光客推定数は600万人を超えました。特に外国人観光客推定数は約53万人で、前の年と比べ約2・5倍に増えました。円安の影響や観光需要の伸びで訪日インバウンド客が増加したのに加え、松山空港で台北線の運航再開や増便、ソウル線や釜山線の増便が背景にあります。

 道後温泉本館の昨年の入浴客数は40万人を超え、今年も9月時点で既に43万人超と、国の内外から多くのお客さまにお越しいただいています。

 道後温泉本館、別館 飛鳥乃湯泉、椿(つばき)の湯の3館の今年の入浴客数は、9月時点で78万人です。そのほか、松山城やリニューアルした子規記念博物館、坂の上の雲ミュージアムなどを含め、主な観光施設の入込客数は、約304万人で前年比112%と、大変好調でした。

 なにより御社の「にっぽんの温泉100選」は、旅のプロの目線で、「雰囲気」「泉質」「ご当地グルメ」などを総合的に評価され、昨年、道後温泉が過去最高の2位に選ばれたことは、大変な名誉であり、道後地区をはじめ松山市全体への誘客と活性化につながったと考えています。

 ――道後温泉での成功事例の一つとして、アート事業の展開を挙げる関係者が多いようですが、改めて成果と今後の展望について。

 道後温泉本館の保存修理工事を見据え、官民協同で地域資源とアートを掛け合わせたアート事業のアイデアが出されました。道後温泉本館が現在の3層楼に改築され、120周年の大還暦の節目を記念し、2014年、アート事業を初めて実施しました。

 これまで草間彌生さんや谷川俊太郎さん、蜷川実花さん、山口晃さん、浅田政志さん、日比野克彦さん、大竹伸朗さんなど、国の内外で活躍をされるアーティストに参加いただきました。

 「アート」の取り組みは、道後温泉の新しい魅力を創り出し、若い人たち、とりわけ女性に支持され、新たな観光客の掘り起こしにもつながりました。その結果、楽天トラベルの「おんな一人旅に人気の温泉地ランキング」で、2014年から5年連続1位になるなどしています。

 美術館など一つの建物の中でなく、地元の旅館やホテル、商店街の皆さんとも連携し、道後温泉のまち全体に作品を点在させ、回遊性と滞在性を高めています。地元の方々にも新たなビジネスチャンスが生まれるとともに、シビックプライドの醸成にもつながったと思います。

 また、通年で開催して旅行商品を造成しやすくし、訪れる方がいつ来ても、何度来ても、楽しめるようにしています。

 これからも時代の動向やニーズを見極めながら道後温泉の魅力を国の内外に発信していきます。

 ――道後温泉本館の全館営業再開に続く同温泉の目玉企画「道後アート」への期待について。

 道後温泉のアート事業は、10周年の節目です。蜷川実花さんは4回目の参加です。国の内外で高い評価を得ているアーティストで、もちろん道後でも大きな功績を残されています。

 今回は、「EiM(エイム)」というクリエイティブチームと一緒にプロジェクトに参加されます。EiMは大阪・関西万博でテーマ事業プロデューサーを務めた、科学者・EiMプロデューサーの宮田裕章さんらで結成されたクリエイティブチームです。蜷川さんは現在、そのEiMとともに、特に空間の特性を生かした作品づくりに注力されています。

 蜷川さんの作品を道後温泉地区に点在させ、道後のまちを彩っていただきますが、道後の街並みや歴史・情緒を思いながらEiMと一緒に作品を作り上げてくださったことで、これまでにない作品展開になっている印象です。

 会期は2027年2月28日まで、約1年5カ月のロングランです。今日(10月10日)からは、道後温泉本館の北側と西側の障子とガラスに、四季の花々や金魚などの写真を36点設置する「道後温泉本館インスタレーション」をはじめ、道後商店街や道後温泉椿の湯に作品を展示しています。

 また、本館前に、道後のアートプロジェクトでは初めて、オフィシャルショップを開設し、道後アートや蜷川さんのオリジナルグッズを販売しています。

 期間中、作品を増やしていく予定です。皆さまには何度でも道後にお越しいただき、ワクワクを感じていただけると期待しています。

 ――訪日インバウンドの地方誘客が国の課題となっています。松山市はどのような施策で取り込みますか。

 松山市の昨年の観光客推定で、外国人観光客数は国別で、韓国は前年比234・8%増の28万9300人、台湾は前年比129・4%増の13万1200人です。

 また、松山市の総合計画で、2029年の外国人観光客推定数の目標を、韓国、台湾、中国、香港など東アジアの国・地域からの受け入れなどで、32万人としています。うれしいことに、既に目標値を上回っている状況です。

 さらにインバウンドを獲得するには、好調な東アジアの国々に加え、滞在時間が長い、欧米豪の観光客も視野に入れるなど、ターゲットの幅を広げる必要があると考えています。そのためには、「高付加価値」に着目した旅行市場の開拓は、大変重要です。

 高付加価値旅行を楽しむ方は、旅行1回あたりの消費単価が高く、また、旅行自体に、地域の「伝統と文化」や「自然」などに触れ、知的好奇心や探究心を満たす目的があるようです。

 松山市は広域観光戦略で、「瀬戸内・松山構想」を掲げ、広島地域の自治体や交通事業者と連携しています。世界に誇る道後温泉や松山城と世界遺産の原爆ドームや厳島神社ほか、観光資源を組み合わせ、「日本の歴史や文化」をテーマに、ストーリー性をもたせるなど、「瀬戸内・松山」のブランド力を高め、戦略的にプロモーションしています。

 今年は大阪・関西万博が開催され、大阪観光局や全国の温泉地と連携し、「温泉ツーリズム推進協議会」や、西日本の自治体や企業でつくる「西のゴールデンルートアライアンス」に参画し、万博会場で「伝統・文化」「自然」「食」を情報発信しました。

 これらを高付加価値旅行でも商品化の素材として提案でき、旅行者の知的好奇心や探究心に応えられると考えています。

 また、関心のある層に的確に情報を届けるため、瀬戸内の魅力が効果的に伝わるSNSや、高付加価値旅行を扱うオンライン旅行会社の情報発信ツールなどを生かし、誘客していきます。

 (聞き手・森田淳)


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