【私の視点 観光羅針盤 495】大阪・関西万博の功績とレガシー 吉田博詞


10月13日に閉幕した大阪・関西万博は、半年間で一般来場者数約2500万人超の来訪数で締めくくられた。当初目標の2820万人には届かなかったが、2200万人の黒字のボーダーラインは越えることができ、大きなトラブルなく終えられたことは関係者も一安心していることだろう。経済波及効果は各種試算がある中で、2.5兆円から3兆円程度の効果が期待されるといわれていた。当初目標に近い来訪数を得られたことで、大阪を中心には一定の効果があったとみていいだろう。

そもそも期待された地域経済への波及効果はどうだったのだろうか? 万博を機に訪日観光客の地方への誘客拡大が一つの大きなキーワードであったが、来訪数における外国人観光客は9月中旬時点で全体の6.1%にとどまり、当初目標の2820万人のうち12.4%(約350万人)には届かなかった模様である。夏の猛暑による欧米豪市場の動き鈍化、中国本土からの個人旅行再開の遅れ、海外メディア露出の不足、パビリオン建設遅延による評価の出遅れなどが要因として挙げられている。来訪者が地方にどの程度回遊したかのデータはこれから出てくるだろうが、期待されたほど大きな効果ではなさそうなことが予想される。

それ以上に、大阪市内を中心とした一部だけに宿泊客が集中し、周辺観光地では客数減という現象も見られた。京都、奈良、和歌山といった近隣地域でも、大きな伸びがあったとはされていない。山陰や四国、北陸など遠隔地ではむしろ例年より国内客が奪われて、来訪数が減った地域もあり、「万博が地方を潤す構図」には至らなかったのが実情だ。結果的に、都市集中と地域間格差という日本観光の構造的課題を浮き彫りにしたともいえる。

しかし、数字だけでは測れない”レガシー”も確かに残った。兵庫県などで展開された「フィールドパビリオン」は、地域そのものを舞台とした体験型観光の先行モデルとなり、地方発の参加型プログラムという新しい潮流を生み出した。なお、人気だったパビリオンは「パソナ ネイチャーバース」と「オランダ館」が兵庫県淡路島へ、「いのちの遊び場 クラゲ館」は広島県福山市に、「ルクセンブルクパビリオン」は大阪府交野市の公共施設として再利用される計画がある。全体の2割程度が移設される予定となっており、その活用も期待される。また、会場運営で導入されたグリーンチャレンジやカーボンオフセットの取り組みは、環境配慮を行動変容として体験させる実験場となった。テーマであった「いのち輝く未来社会のデザイン」に対して、官民学が連携した共創プロジェクトは、地域産業やスタートアップの協働基盤を形成し、ポスト万博のまちづくりや観光産業の土壌を耕したといえる。

当初辛辣(しんらつ)な意見も多かった万博が、こうしてまずは成功に終わったことに関係者に敬意を表したい。そして、この万博で作られた機運・レガシーをいかに生かして次につなげていくか、われわれのアクション次第で大きく変わるはずだ。熱が冷めやまぬうちに次の手を打っていきたいところだ。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
 
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