エアビーアンドビー共同創業者兼最高戦略責任者 ネイサン・ブレチャージク氏
JTBと、Airbnb(エアビーアンドビー)の日本法人は、日本各地の空き家などの遊休資産を滞在、交流、防災などの拠点として活用するため、「地域未来にぎわい工房」を創設、10月から活動をスタートさせた。1日、両社の代表が東京都内で記者発表した。両社にとどまらず、さまざまな企業・団体の参画を募り、地域にノウハウや流通網を提案することで、地域課題の解決につなげる。2028年までに全国125地域への展開を目指している。
再エネ、防災、離島などテーマ 参画企業・団体を募集
両社は今年1月、包括連携協定を締結。人口減少などで地域資源が生かしきれない地域の観光活性化に向け、空き家の活用などを通じた受け入れ環境整備のノウハウや仕組みを提供することになった。これまで東日本を中心に活動してきたが、事業を拡大する。
「地域未来にぎわい工房」は、JTBとエアビーアンドビーを中核に、さまざまなサービスや技術を持つ企業・団体に参画を呼び掛け、共に事業を運営・展開していく。観光支援の枠を超え、地域に持続的なにぎわいづくりを進める。
JTBの役割は、プロジェクトの企画・実行、参画企業と連携したサービスの提案・開発など。エアビーアンドビーは、プロジェクトへの伴走支援やマーケティング支援などを担う。他の参画企業は、自社サービスの提供のほか、JTBと連携したサービス開発などを進める。
滞在環境において需要と供給のバランスに差がある地域が主な対象。重点テーマとして次の四つを挙げている。(1)再生可能エネルギー地域(再エネ事業と連動した滞在インフラ整備、例=北海道上ノ国町)(2)産業集積地域(工業団地などでの人材滞在支援、例=北海道石狩市)(3)防災対応地域(遊休資産の避難所・仮住まい活用、例=宮崎県高鍋町)(4)離島・周辺地域(観光・移住検討者の交流拠点整備、例=鹿児島県瀬戸内町)。
両社は、「地域未来にぎわい工房」への参画企業・団体を募集している。すでに大日本印刷、良品計画が参画を表明。CCCカルチュア・コンビニエンス・クラブ、オリエントコーポレーション、損害保険ジャパンも参画するという。
Airbnb ブレチャージク氏「新たな経済の循環生み出す」
世界中の旅行者が今までとは違う体験を求め始めている。よりオーセンティック、本物の、また現地ならではの体験を望み、まずはそういった体験を身近な場所から始めるという傾向が強まっている。日本においても特に若い旅行者層を中心に、この変化は明らかに見て取れる。
日本は常に、世界で最も人気のある旅行先の一つだ。国内旅行者と、再び増加傾向にある海外からの旅行者の双方で、強い需要の伸びが見られる。大都市を超え、日本の地域、地域へとさらに多くの旅行者を呼び込み、地方の活性化を図る大きな可能性が秘められている。
私たちには、強力なローカルパートナーが必要で、JTBはまさにそうした存在だ。JTBが日本における多様なネットワークと深い専門知識を提供し、エアビーアンドビーがグローバルなプラットフォームと世界中からの需要を提供していく。
空き家を再生することは、単に新たな宿泊施設を開業することではない。地域のにぎわいを活性化させ、地域経済活動の新たな循環を生み出すことになる。エアビーアンドビーが調査委託しているオックスフォード・エコノミクスの報告書には、2024年、当社のプラットフォームが日本のGDPに7700億円を貢献し、約8万8千人の雇用を支えたと書かれている。
新たな民泊は、地域に活気をもたらし、小規模事業者の思いを支援し、また、若い世代が地元にとどまり、未来を築く機会を生み出すことになる。また、それは波及効果も生み出していく。地域経済に新たな活力を生み出し、地域文化に新たな誇りを与え、そして未来への新たな自信につながっていく。

エアビーアンドビー共同創業者兼最高戦略責任者 ネイサン・ブレチャージク氏
JTB 大塚氏「地域のアイデンティティ重視」
JTBがなぜ、今、エアビーアンドビーと提携して「地域未来にぎわい工房」を創設するのかというと、JTBは「交流創造事業」を掲げて、旅行事業から、交流をつくり出す事業へと変化してきている。
旅行業は旅館やホテルがある地域ではビジネスができるが、宿泊施設がないところではビジネスが厳しいというところがあるが、交流創造事業では、A地点からB地点に行くということに加えて、そこで得られる交流が新たなものを生み出していく。
なかなか旅行者が行かないエリアに入り込んでいって、エアビーアンドビーと同じ目線で、その地域を変えていくことができるのではないかということで、今回、ご一緒させていただくことになった。大事なことは、その地域のアイデンティティ、その地域が持っている良さを引き出して、その良さを外の方にお伝えしていくというストーリーだ。これが極めて重要だと考えている。
JTBの強みは、企業との連携が日本中にあることだ。グローバル企業とも連携している。企業のほかにも、行政や学校、こういったところとも仕事をしている。ここにエアビーアンドビーが加わって、地域の強いアイデンティティをつくり上げていくということは、この国にとっても非常に重要な価値が生まれてくると思っている。
社会的価値と経済的価値をどう融合させていくかという、「CSV(Creating Shared Value)経営」(経済的価値〈利益の獲得〉と社会的価値〈社会的課題の解決〉の両立を軸とした経営)に、私たちは今、チャレンジしようとしている。構想はいくつもあるので、ここから生まれてくる新たな展開を皆さまにお届けできるようにしたい。

JTB代表取締役専務執行役員ビジネスソリューション事業本部長 大塚雅樹氏
活動事例
■遊休資産を宿泊施設に 30~40軒に拡大へ(北海道上ノ国町)
JTBとエアビーアンドビーが連携して取り組んだ第1号の地域が北海道上ノ国町。空き家などの遊休資産を滞在拠点として活用するため、地域住民や高校生が参加するDIYやワークショップが行われたほか、企業と連携したリノベーションなどが進められた。
地域の思いと企業の知見が融合した共創モデルとなった。2025年4月からの短期間で2軒の遊休資産が宿泊施設に転換された。今後、町全体で30~40軒への拡大を目指す。

北海道上ノ国町
記者発表に参加した上ノ国町の工藤昇町長は次のように話した。
「私たちの町のピーク時の人口は1万5千人。今は約4千人だ。あと20年ほどで1600人になるだろうといわれている。人口が減る中、何が残るかというと空き家が残る。全国津々浦々に共通する課題だが、今回、エアビーアンドビー、JTBとのご縁をいただき、不良資産であった空き家が優良資産に生まれ変わるという夢のような話をいただいた。
私たちには、まだまだ可能性がいっぱいある。町には、国内最大級の洋上風力が誘致される。ところが、7千~8千億円規模の事業が来ても、人はどこに泊まるのか。そういう中で、今ある空き家を使ってそこに宿泊してもらう。インバウンド、関係人口にもつながる。さまざまな町づくりの根幹をなすことができる」

上ノ国町の工藤昇町長




