お宿を経営されている皆さんは、毎日さまざまな意思決定と課題解決の連続ですね。その一つ一つに、経営者としての「軸」を持って臨んでこられたことと思います。
ある経営者から、こんなお話を伺いました。「これまで基軸をしっかり持ち、ぶれない思考で意思決定をしてきました。でも最近、この考え方が実はかたより(バイアス)なのではないかと不安になることがあるのです」と。
この葛藤、きっと多くの経営者が経験しているのではないでしょうか。この相反するように見える「基軸を持つこと」と「かたよりへの不安」について、一緒に考えていきたいと思います。
まず整理したいのは、経営の「基軸」と思考の「かたより」は、実は別物だということです。
基軸とは、あなたが大切にしている経営理念や価値観のことです。「お客さまに心からくつろいでいただきたい」「地域の文化を守り伝えたい」「スタッフが誇りを持って働ける場所にしたい」。こうした信念は、経営判断の羅針盤となり、お宿の個性を形づくるものです。
一方でかたよりは、過去の成功体験や慣習に無意識に引っ張られ、新しい可能性を見落としてしまう思考の癖のことを指します。「これまでこうしてきたから」「昔はこれで成功したから」という理由だけで判断してしまう時、基軸がかたよりに変わってしまう可能性があります。
つまり、基軸を持つことは経営に必要不可欠ですが、それが硬直化してしまうとバイアスになる―。そういう関係性なのです。
年を重ね、経験を積んでいくと、さまざまな場面で「これはこうすればいい」と、パターン化された思考で効率的に対応できるようになります。これは経営者としての成長の証です。
でも同時に、そのパターン化された思考が、変化する時代や新しい顧客ニーズに対応する柔軟性を奪ってしまうこともあります。「もしかして、自分の考え方が古くなっているのでは?」「若いスタッフの意見を、無意識に退けていないか?」。こうした不安がよぎるのは、自分自身を客観視できる成熟した経営者だからこそ感じる、「健全な疑問」なのです。
この相反するように見える課題に、どう向き合えばよいのでしょうか。三つの視点からアプローチしていきましょう。
1.定期的に「なぜ?」を問い直す
自分の判断に対して、「これは本当に正しいのか?」「なぜそう考えるのか?」と問い直す時間を意識的に持ちましょう。最近の意思決定を振り返り、「この判断は理念に基づいているか、それとも単なる慣習か?」を自問してみてください。
2.異なる視点を積極的に取り入れる
若手スタッフ、他業種の経営者仲間、あるいは信頼できる第三者など、あなたとは違う視点を持つ人の意見を定期的に聞く機会を作りましょう。特に若いスタッフの感覚は、新しい世代のお客さまのニーズを映し出す鏡になることがあります。
3.「ぶれない」の定義を更新する
「ぶれない」というのは、「変えない」ことではありません。むしろ、核となる価値観を守りながら、その実現方法は状況に合わせて柔軟に変えていきましょう。例えば、「お客さまにくつろいでいただく」という基軸は変えずに、その方法は和室だけでなく洋室を取り入れたり、デジタル技術を活用したりと進化させる。そんなイメージです。
あなたが感じているその「揺らぎ」や「不安」こそが、次のステージへの入り口だということです。どうか、その揺らぎを恐れないでください。それは、あなたが誠実に経営と向き合っている証なのですから。
失敗の法則その72
基軸をかたくなに守ろうとすることで、かたよりが生じる。
その結果、経営者として何をどうしていけばいいのか、分からなくなってしまう。
そこで、基軸とかたよりの違いを認識し、三つのアプローチで次のステージへ進もう。
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