前号で、燻製(くんせい)調味料について述べた。筆者も以前燻製にハマったことがあったのに、コラムには書いていなかった!…というワケで、今回のテーマは「燻製」。
燻製の始まりは、偶然の産物といわれる。人類が火を使うようになり、洞窟の中でたき火の上に吊るしていた獲物の肉が、腐りにくくなっていることに気づいたのだ。煙に含まれる殺菌・防腐成分によって食材の保存力が高まる燻製は、冷蔵庫のない時代、食品の保存方法の一つであった。
冷蔵技術の発達した今、燻製は保存目的ではなく、その豊かな風味を楽しむという目的に進化した。日本ではコロナ禍に、三密を避けられるアウトドア・アクティビティとしてキャンプがブームとなったが、その折屋外調理に適した燻製も、脚光を浴びることに。確かに、キッチンに煙が充満しても困るし、ベランダから燻(いぶ)した煙をモクモクさせても近所迷惑だ。屋外なら、匂いも気にならない。
筆者がハマったのは、食材に薫香を付けるだけでなく、同時に加熱調理もできちゃう熱燻だ。オマケに短時間で仕上がるのもうれしい。前号で述べたが、熱燻とは80~140度の高温で、10分~1時間程度燻す方法。塩漬けナシでそのまま燻せるチーズやナッツ、味付き煮卵やシシャモなど、超簡単な初心者向き食材も、燻製の魔法で美味に。
本来燻製は、塩漬けからスタートする。浸透圧を利用して食材の水分を引き出し、保存性を高めるとともに、味を付けるのだ。味の決め手となる塩漬けには、二通りの方法がある。一つは、食材に直接塩を塗り込む「ふり塩法(乾塩法)」、もう一つは、塩水に漬け込む「たて塩法(湿塩法)」だ。
たて塩法の利点は、食材が空気に触れないため、酸化しにくい点。4~20%の濃度の塩水「ソミュール液」や、それにしょうゆなど他の調味料や酒、スパイス等を加え、沸騰させ冷ました「ピックル液」に漬け込むのだ。
せっかく塩漬けしたのに、次の工程は何と塩抜き。人がおいしいと感じる塩分濃度は体液と同じ約1%。そう考えると、食材を脱水させるための塩分量では塩辛過ぎるので、水を使って塩抜きし、その後乾燥させる必要がある。そしてやっと燻製にたどり着くワケだ。
本来は燻製後少し風に当て、冷ますと同時に煙臭さを取り除くのだが、出来たて熱々の燻製をいただくのも自家製の醍醐味(だいごみ)♪ 帆立の燻製や、スペアリブ、ラムチョップのスモークなんかも超ベリウマ!
実は、スモーカーを持っていない筆者。取っ手が欠けてしまった古いル・クルーゼが活躍してくれる。鍋底にアルミホイルを敷いてスモークチップを置き、網と食材をセットすれば、台所でも熱燻が可能。サクラやヒッコリー、オークなど、チップの種類によって香りが変わるのもオツだ。チップと一緒にザラメを入れると色付きが良くなり、おいしそうなあめ色に。
なんて書いてたら、また燻製したくなってきちゃった! 次は何をスモークしよう? 楽しみぃ~♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。




