
金祐弘氏
往来活性化へ施策の恒常化を
今年1月にアシアナ航空日本地域本部長に就任した金祐弘(キム・ウホン)氏に日韓路線や日韓関係の現状、展望を聞いた。
――これまでのキャリア、現在の主な業務は。
大学時代に海外旅行をしたことをきっかけに業界に興味を持ち、1988年に大韓航空に入社した。大阪旅客支店を皮切りに、札幌、名古屋、大阪の各支店で支店長を歴任したほか、日本地域本部旅客チーム長に就任後、今年1月から旅客ハンドリング業務などを担う関連会社のアシアナスタッフサービスの代表を兼任する形で、アシアナ航空日本地域本部長に就任した。
現在は従来の営業活動と並行して、来年末の大韓航空との統合に向けた準備をすると同時に、グループとしてのシナジー効果を発揮するべく、例えば、アシアナスタッフサービスと韓進インターナショナルの合併による人的資源の共有化および、事務所の統合などを進めている。
――昨年の訪日韓国人数は882万人で過去最高。韓国人観光客の日本訪問が増えている。
リピーターの増加に伴いこれまで大都市に集中していた訪日韓国人観光客が地方都市にも目を向けはじめたようで、需要の広がりを実感している。一方で、訪韓日本人数が322万人と訪日韓国人数の37%程度しかない点は残念だ。自治体や旅行会社が一体となってパスポートの取得キャンペーンなどを実施し、改善を図ってほしい。日韓関係は政治的な影響を受けやすいが、政治とは一線を画して訪日・訪韓需要が今後も増えることを願うし、そうなると思っている。
――今年の日韓線で運航上、苦労されたことは。
コロナ禍からの需要回復を受け、機材繰り、乗務員、空港スタッフなどの配置がうまく追いつかずギリギリの状況で運航しないといけなかったことがとても大変だったが、その中でも特に地方空港において自治体や空港会社、操業会社の皆さまのご協力で、無事に運航を続けられたことは大変ありがたいことだった。
8月1日付で貨物機事業がエアインチョン(現エアーゼータ)に売却されたことで、これまで一緒に働いてきた仲間と別の道を歩み始めることになったことはさびしい出来事だった。
――楽天ペイに続いてPayPayの導入などキャッシュレス決済を進めている。
コロナ禍を契機にキャッシュレス決済の普及が一気に進んだ。決済利便性の向上により、さまざまなお客さまのニーズに応じた対応が可能となった。今後も新しい決済ツールの導入を検討する。
大韓航空と統合で路線は拡大
――今後の運航スケジュールは。
大韓航空との統合に伴う是正措置がこのウインタースケジュールから始まる。福岡―仁川便は現在の毎日3便から1便に減少する見込みだが、それ以外の路線はおおむね前年水準を維持しつつ、仙台、宮崎路線は冬季中に増便運航することを推進している。
――来年の大韓航空との統合へのスケジュールと、シナジー効果については。
現在、当社は日本国内10都市13路線、大韓航空は同14都市21路線を運航しているが、統合後は、17都市24路線に拡大する予定だ。子会社のLCCを含めると、23都市33路線と毎日約110往復する体制となる計画だ。
大韓航空が保有しているエアバスA350の整備を以前から同機を保有している当社が請け負うことで整備効率を上げたほか、ソウル中央発券カウンターを同社ビルに移転し、顧客利便性を図った。日本地域本部でも6月に大韓航空日本地域本部横のビルに引っ越したことを皮切りに、大阪、名古屋、福岡の営業所も統合作業を進めている。
販売面でも、韓国では当社が運航している宮崎線と大韓航空が運航している鹿児島線を利用した周遊商品の販売を開始した。以遠便に関してもお互い運航していない路線も利用できるように運賃登録をするなど、利便性向上に向けた取り組みを強化している。
――日韓国交正常化60周年を迎え、現在の日韓関係は良好といえる。
日韓両国は、1人当たりのGDPがほぼ同水準で、また少子高齢化、首都圏への一極集中、地方の衰退といった共通の社会課題に直面し、経済的にも深いつながりがあることから、共通の課題解決に向けた協力や、首脳間の継続的な対話で、より関係を深めていくことが重要だ。相互理解を深めるためには直接訪問し、その国の人と交流することが一番有効な方法ではないかと思う。実際に経験することで恣意(しい)的なニュースに惑わされない座標軸が個々人の中に備わると考えられる。
そのために、両国間の往来がさらに活性化するように、今年6月に国交正常化60周年の記念事業として実施された相互入国審査の簡素化などの施策の恒常化を提唱してもらいたい。
――日本観光の発展に向けてアドバイスを。
日本は四季折々の豊富な景色が全国各地に広まっている。大都市圏だけではなく、今後は地方の魅力を海外にPRし、地方の集客を増大していくべきではないか。その中で当社としても需要が見込まれる路線に関しては積極的に運航を推進する。ただ、地方空港の場合、国内線メインのところが多く、国際線を開設するための施設面や人材面で難しいところがあるため、今後のインバウンド増加を見込んで先行投資を進めてほしい。
【聞き手・坊ヶ田知大】
金祐弘氏