【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全54】必要な数字の可視化は日繰りと累計で行う 孫田 猛


 お宿にとってあるべき姿を数字に表したものが、収支計画です。初めに必要利益を算出し、シミュレーションを重ねて年間計画を作成するというのが典型的なプロセスです。

 出来上がったお宿のガイドラインとも言うべき収支計画は、月次の数値計画に落とし込んでありますよね。月次の実績が出たら計画値および前年値と対比して、差異を算出します。月次対比と累計対比が一覧表に収められ、差異についてのコメントが添えられるというパターンが一般的です。

 ではこの予実検証は翌月のどの段階で実施しますか。多くのお宿では、月次試算表が出てからなので翌月の2週目以降開催が多いようです。月末に締めてから約2週目以降に前月の実績を確認する。現場はすでに新しい月に移行して半分が過ぎているので、今頃前月の振り返りか、という感覚がありませんか。だからいまひとつこの予実検証会議の価値が感じられないのだと思います。

 では改めて、この予実検証の目的は何でしょうか。計画と実績の数値の差異を共有することでしょうか。それだけでしたら会議を開催する必要もないかもしれません。各種のデータを共有すればいいことです。

 ではあえて集まって会議を開く必要性は何か。それは予実差異のデータをもとに軌道修正を図り、新たなアクションを起こすためです。この認識が経営者をはじめ、会議参加者全員にありますでしょうか。

 予実データは判断材料であり、重要なのは軌道修正のアクションなのです。だとすれば、そもそもどうすればいいのか。

 まずは月次予実差異や試算表の呪縛からいったん離れましょう。あなたのお宿にとって、注目していくべき数字は何でしょうか。あるお宿では売上総利益、現預金、食材費に絞り、日繰りと累計、月末の着地予想金額を可視化しています。

 ここを見ていれば機動力と小回り性を生かして、軌道修正が図れるとみています。

 売り上げはフロント会計から出力される売上日報とオンハンドの推移です。同時に残室数が出てきますので、目標数値との乖離(かいり)が毎日見て取れます。

 食材原価については毎日の食材発注金額とその累計金額を出していきます。これに対応するのは日ごとの宿泊人数。ここでは料理プランごとに想定原価額が設定されていることが前提です。これにより、宿泊客1人当たり食材原価額が自動計算できます。その結果、売上総利益も日繰りと累計で把握することができます。

 そして普通預金通帳と現金出納帳による現預金の推移です。あらかじめ収入と支出の科目ごとに計画値と実績値を記入すれば、予実管理ができます。

 あとはエネルギーコストや総残業時間等注目すべき支出内容を、お宿ごとに設定しておけばいいでしょう。

 このように、あなたのお宿にとって、必要な数値を日繰りと累計で可視化を行えば、コントロールが可能になります。

 いかがでしょうか。2~3週間前のデータに基づいて、経営のかじ取りを修正することは、過去の天気をもとに空を飛ぼうとしている飛行機のようなものです。そんな飛行機に乗りたいと思いますか。

 試算表は数字を整理した後に出てくる、通知簿のような位置づけにしましょう。その時にはすでに手を打っていることでしょうから、安心して試算表を見ることができますよ。

失敗の法則その53
 試算表がまとまった段階で、予実差異分析をしている。
 その結果、半月遅れの着手が日常化になっている。
 だから、試算表に頼らず、可視化すべき数字を日繰りと累計で追うことで、早い段階で軌道修正を実施しよう。

 https://www.ryokan-clinic.com

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒