【私の視点 観光羅針盤 494】高市総裁と観光立国 石森秀三〈観光経済新聞10月13日号掲載コラム〉


私の視点 観光羅針盤

 10月4日に投開票された自民党総裁選で、高市早苗氏が決選投票で小泉進次郎氏を破り、第29代総裁に選出された。自民党結党70年で初めての女性総裁の誕生になった。臨時国会での首相指名選挙で選出されれば、憲政史上初の女性首相の誕生になる。日本は現在数多くの内憂外患を抱えており、高市総裁の前途は極めて多難である。本稿では高市総裁が内閣総理大臣になることを想定して、日本の観光立国の行方について愚考してみたい。

 観光立国を問う以前に、高市総裁はまず少数与党の苦境を抜け出すために連立枠組みの拡大を実現する必要がある。連立与党・公明党の斉藤鉄夫代表は、政治とカネの問題、靖国神社への参拝をめぐる歴史認識、外国人との共生などについての懸念を表明し、連立政権は政策と理念の一致が不可欠である、と高市総裁に強く申し入れている。

 自民党衰退の大きな原因の一つは「政治とカネ」の問題であり、総裁選以前には解党的出直しが必要と叫ばれていた。しかし、高市総裁は派閥の裏金問題に関与した旧安倍派幹部らの要職起用を検討していて、「変われない自民党」体質を内包しているために、国民から強い批判が生じる可能性が大だ。高市総裁は国民民主党との連立を模索しているが、既成政党不信と多党化の動きがより強まることは確実であり、厳しい政権運営を強いられるだろう。

 高市総裁は、外交・安全保障分野でタカ派色の強い政策を提言し続けており、スパイ防止法制定や国家情報局設置などを検討している。さらに対中強硬派でもあるので、国防体制強化のための防衛費の増額にも前向きだ。高市総裁は積極財政派であり、赤字国債の増発もいとわないために将来世代に大きなツケを回すことになる。一方、靖国神社参拝については、新総裁会見で明言を避けたが、いずれ首相としての参拝が不可避になるので、中国や韓国との関係は一挙に不安定化・緊迫化することになる。

 日本のインバウンド観光は、今年末に訪日外国人数が4千万人に達する見込みで、そのうちの約7割は中国、韓国、台湾、香港からの来訪なので、東アジア地域における不安定化は日本の観光立国に大きな影響を与える。高市氏は総裁選の所見発表演説会で、外国人観光客を念頭に「奈良公園の鹿を足蹴にしている」と指摘して物議をかもしたが、高市氏はインバウンドの隆盛化に懐疑的なようだ。

 高市総裁は外国人政策の厳格化を言明しており、不法滞在者対策や土地取得規制などのために政府内に司令塔組織の設置を示唆している。米国やEU(欧州連合)諸国では排外主義的で極右的な動きが隆盛化しているが、少子高齢化が急速に進展する日本の地方各地では「外国人排斥が地方の困窮を招く」という面も否定し得ないのが現実だ。

 日本の観光立国を成功に導くためには数多くの課題解決が必要であり、特にさまざまな面での人手不足解決のために外国人労働者・移民の受け入れは不可避である。グローバリズムの大変動に対応して国家指導者として日本を間違いなく導いていくのは容易ではない。高市総裁は一部の保守層だけでなく、国民全体の利益を考え、日本社会の分断回避に最大限に尽力すべきだ。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
 
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