【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全53】「ダメなんですよ」が口癖の経営者 孫田 猛


 あるお宿の経営者は売り上げ低下と資金繰りに苦しんでいます。いやでも目の当たりにする人に関するトラブル、そしていくら求人募集しても集まらない人材。ここ数年はこの繰り返しの毎日です。

 お宿の経営環境は今よりもさらに厳しくなるばかり。現状維持すら難しく感じています。だから最近は楽しいと思ったことがなく、その気持ちはお宿全体の雰囲気となって広がっています。このままではダメだと分かっているのですが、何をどうしたらいいのか、皆目見当がつきません。

 このような経営環境、将来が見通せない中では、「経営者は夢を語れ」と言われても正直無理だと思っています。

 彼は地元の名士です。さまざまな会合に出席する時は、にこにこしながら存在感を示してはいますが、内部事情について腹を割って相談できる人は、周りにはいません。

 一番身近なパートナーである女将にさえも、経営の話は避けています。

 彼は「ダメなんですよ」が口癖になっています。本人は気づいていません。スタッフがダメなんですよ。経営環境がダメなんですよ。彼とお会いするたびに、耳にするフレーズです。

 目の前に起きていることを直視し、対応策が浮かばないと「ダメ」となる。そしてスイッチが切れてあきらめてしまう、という思考のサイクルがあるようです。

 良くない思考が良くない行動を起こし、そして良くない結果を生むという悪循環に陥っています。

 彼自身は、良くない結果だけが見えています。良くない思考や良くない行動は無意識です。

 どうやらポイントは物事を直視し、そこで良いか悪いかだけを判断してしまうことのようです。物事は表もあれば裏もある。だから俯瞰(ふかん)したものの見方をすることでその状況の背景が見え、対策もとれると問題解決の本には書いてあります。

 その通りなのでしょう。でもそんなことを実際にできる人はどれだけいるのでしょうか。誰でもできる物事の見方を変える方法はないのでしょうか。

 理屈通りできない時は、習慣や癖にフォーカスしてみましょう。彼の場合、「ダメなんですよ」を「このままではダメなんですよ」に変えてみました。私が直接聞いた時にはあえて言葉を変えてもらい、そのフレーズ全体をメモしてもらいました。

 不思議なもので、「このままではダメなんですよ」といった瞬間、ではどのようにしていけば、納得いくゴールにつながるかを考えるようになっていきました。

 その時、前提としなければならないことがあります。それはその物事自体を変えることができるのはまれだということです。

 つまりスタッフが悪いといって、スタッフの性格や考え方を変えることはできない。経営環境が悪いといっても経営環境自体を変えることはできない。

 ならば、変えることができるのは何か。自らが、スタッフや経営環境に対するアプローチを変えることはできるのではないか。

 少し先が明るく見えてきました。彼はその後「ダメなんですよ」を発した時に、周りのスタッフに指摘してもらうことにしました。そしてその時、何に対して発したのかを逐一メモを取り、その事案に対して俯瞰し、ゴールへの複数の対応策を検討するというステップを踏んでいます。今ではこの取り組みを楽しんでいるようです。

失敗の法則その52
 物事を直視した結果、ダメだと決めつけ、スイッチが切れてしまう。 
 その結果、思考、行動、結果のプロセスが悪循環に陥り、解決の道が閉ざされる。
 だから、初期段階での口癖を意識して変えることにより、悪循環から好循環へシフトさせる。

 https://www.ryokan-clinic.com

 
 
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