フェーズフリーの観光まちづくりを 観光振興と防災を同時に推進 TEJ国内観光シンポジウム


シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

フェーズフリー協会の佐藤氏が講演

 9月25~28日に開催されたツーリズムEXPOジャパン2025愛知・中部北陸(TEJ2025)では26日、日本観光振興協会主催の「国内観光シンポジウム フェーズフリーで進化する観光―安心と豊かさが築く次世代のデザイン」が開催された。フェーズフリー協会・代表理事の佐藤唯行氏がフェーズフリー市場とそのビジネスチャンスに関する基調講演を行ったほか、実際に同取り組みを役所や観光施設などで導入している自治体を招いたパネルディスカッションを実施。非常時の避難場所として機能する観光まちづくりのデザインを紹介した。

 「フェーズフリー」は2014年に生まれた概念で、普段使っているモノやサービスを、災害時などの非常時にも役立てるという考え方を指す。近年は衣服や文具、住宅などのメーカー各社が自社製品にフェーズフリーを取り入れる動きも活発化している。

 シンポジウムの前半、「今後、急拡大が見込まれるフェーズフリー市場とビジネスチャンス」と題した基調講演を行った佐藤氏は、フェーズフリーの概要や実際に導入した企業の事例を紹介。一般消費者には約3割程度の認知度だとしつつも、事務用品通販大手のアスクルや文具メーカーのコクヨ、住宅建設の大東建託などが積極的に導入していると報告した。

 さらに佐藤氏は、自治体における同様の取り組みも紹介。東京都の豊島区や調布市などを挙げ、観光施設においては「観光の価値を高めるもの」と「もしもの時に観光客を守るもの」の二つの機能を同時に求めていくことが重要になると解説した。能登半島地震で被災した石川県が昨年6月に策定した「創造的復興プラン」も紹介。地域コミュニティを維持しながら地域振興と防災を同時に推進していると説明した。

 「少子高齢化の時代、非常時にしか役立たないインフラを整備することは非常に難しく、コストパフォーマンスも悪い。普段の地域住民の生活を豊かにする延長線上に、非常時の課題も解決できるような社会をデザインする必要がある」と佐藤氏。昨年5月に閣議決定された「第6次環境基本計画」や、「国土強靭(きょうじん)化政策」も紹介し、国も同様の取り組みを後押ししていることを強調した。

役場を避難拠点に、視察ツアーも実施 北海道小清水町

 後半のパネルディスカッションでは、フェーズフリーを取り入れた観光まちづくりを推進する自治体として、北海道小清水町産業課課長の石丸寛之氏、徳島県鳴門市戦略企画課副課長の藤倉大樹氏も登壇。観光行政の現状やフェーズフリーの取り組みを紹介した。

 小清水町の石丸氏は同町の観光の現状について、かつては団体客でにぎわったが、近年はバードウォッチングなどで個人客が多く来訪していると説明。2018年にはアウトドア専門店「モンベル」をJR浜小清水駅前の「小清水ツーリストセンター」に併設する形で開業したと報告した。

 石丸氏は同町のフェーズフリー施策として、23年5月に開庁した防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」を紹介。施設内には町民交流の場として「にぎわいエリア」を創設し、フィットネスジムやボルダリングウォールを設置したほか、災害時にも使えるカフェやランドリーなども開設。災害時にも役立つ住民交流空間となり、利用者数も増加傾向にあると報告した。

 昨年10月には、町役場の隣にドラッグストア「サツドラ小清水店」も誘致。災害時に店内の備蓄商品を役場に供給する連携協定を締結し、日常生活での利便性と非常時の有用性、さらに災害備蓄庫の維持管理コストからの解放などを同時に解決したと紹介した。

 今年からは、こうした同町の最新施設を視察する「フェーズフリーツアー」も実施。来年も8月にJTBの催行で実施すると報告し、企業、自治体の参加者を募集していると呼び掛けた。

市民への理解促進、教育現場でも紹介 徳島県鳴門市

 鳴門市の藤倉氏も、同市の観光の現状について説明。近年は通過型観光の需要が増えており、27年度中には鳴門大橋に新たな自転車道が開業することも紹介した。

 藤倉氏は同市のフェーズフリー施策について、南海トラフ巨大地震に備えた独自の取り組みを行っていると説明。2018年には全国の自治体で初となる地域防災計画にフェーズフリーを組み込み、「気が付いたら防災になっていること」を目標にしていると説明した。

 その具体的な取り組みとして、ハード面では「ボートレース鳴門」や「道の駅くるくるなると」、昨年5月に開庁した新市役所本庁舎や現在整備中の浄水場などにフェーズフリーを導入。ソフト面では、市役所内での広告掲出や教育現場でも同取り組みを紹介するなど、地域住民への理解促進も行っている。

 こうした取り組みが国に認められ、昨年9月には同市が「防災功労者内閣総理大臣表彰」を受賞。泉理彦市長が授賞式に出席したことも報告した。

シンポジウムの様子
シンポジウムの様子

 佐藤氏は、「非常時のためにフェーズフリーをしようと考えると、命を守ることが重要だと思ってしまう。これからフェーズフリーな観光を考えていくとき、まず軸足においてほしいのは日常のお客さまへの価値をしっかり上げていき、ついでにそれが非常時にどう役立つのかを考えてもらいたい」とアドバイスした。

 
 
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