【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全72】どうなっていたらいい? 孫田 猛


 これまで多くのお宿が取り組んできた問題解決の方法は、「今ある問題」から出発するものでした。例えば「売り上げが計画を下回っている」「赤字が出そうだ」「スタッフがまたやめる」といった現実の問題に対し、その原因を探り、対策を考えるというプロセスです。一見合理的に見えますが、実はこのやり方には落とし穴があります。

 問題から始めると、どうしても「今の延長線上」での思考になります。だから制約条件がじゃまをして何も決まらない。また、完璧な解決策を得ようとして時間ばかりかかり、結局何も変わらないということが起こりがちです。

 そこでおすすめしたいのが、真逆のアプローチです。これは、まず「理想の姿」を描いて、それと現状のギャップから改善を進める方法です。

 最初にやることは、「ようするにどうなっていたらいいか?」を具体的に想像することです。大切なのは、今の制約にとらわれずに「本当はこうありたい」と思える姿を描くことです。完璧である必要はありません。「仮の理想」でも構いません。

 そしてこの「理想の姿」の状態になるためには、どのような要素を満たしていけばいいのかをリストアップしていきます。ここがとても重要なポイントです。「理想像」は言葉にすると抽象的になります。だから人によって受け取り方が異なります。せっかく定義づけをしても、人によってとらえ方が違っていたら意味がないですよね。だから成立する条件を列挙していきます。これはあなたのお宿では何が必要かということで結構です。

 次に理想の姿が描けたら、今の状況と比べてみます。何が違うでしょうか? あくまでも事実ベースでギャップを整理します。

 そしてギャップの理由を考えてみます。ただし、深く分析する必要はありません。「こうかもしれない」という仮説で十分です。

 さらに仮説に基づいて、できることから始めてみます。大きな投資や大がかりな変更は必要ありません。

 実際にやってみて、どうだったかを振り返ります。うまくいかなくても大丈夫。むしろ「学び」として次に生かせます。

 完璧でなくてもいいのです。「正解」を見つけようとしなくて構いません。「今の自分たちにとって納得できる答え」を見つけることが大切です。

 一度にすべてを変えようとせず、できることから始めましょう。

 理想の姿は、スタッフ全員で共有することが大切です。「私たちのお宿はこうありたいね」と話し合うだけでも、チームの結束が強まります。

 私たちのお宿には、
 ・お客さま一人一人との距離が近い
 ・スタッフ同士の連携が取りやすい
 ・経営者の思いが直接現場に届く
 ・地域との結びつきが強い
 といった特徴があります。

 これらの強みを生かした「理想の姿」を描くことで、他ではまねできない魅力的な宿づくりができるはずです。

 問題から出発するのではなく、理想から始める。そして、完璧を求めずに小さく試して学んでいく。この考え方は、限られたリソースの中で経営をされているお宿にこそ適しています。

 さあ、まずは「うちのお宿の理想の姿」を考えることから始めてみてください。顕在化された問題は理想像を明確にするチャンスととらえましょう。きっと新しい発見があるはずです。お客さまにもスタッフにも愛されるお宿に向けて、一歩ずつ前進していきましょう。

 失敗の法則その71
 今起きている問題を真正面からとらえ、解決策を得ようとしても、制約条件が壁となり、前に進めない。
 その結果、問題解決が空回りして、問題が複雑かつ増幅していく。
 そこで、理想の姿の条件を出し、深刻にならずにトライアンドエラーを繰り返してみよう。
 https://www.ryokan-clinic.com

 
 
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