
千葉氏
環境省「令和7年度良好な環境を活用した観光モデル事業」に採択された「NPO法人おおつちのあそび」のモニターツアーに参加した。舞台は三陸沿岸の岩手県大槌町。東日本大震災で甚大な被害を受けたが、復興に尽力した県外からの人たちが、今も町の未来を支える。
大場理幹さんも、その1人。東京大学大学院新領域創成科学研究科に在籍する研究者で、移住した大槌で奥様の秀佳さんと二人三脚、藻場(もば)再生活動を推進する。海洋環境の保全をツーリズムと融合することによって“令和の里海づくり”を、さらに推進しようと奮闘中だ。というのも、地球温暖化の影響で近ごろは、三陸の海でも伊勢エビが取れるらしい。水温上昇によって海の森の藻場は、やせ細るばかり。ブルーカーボン生態系の維持に、ツーリズムが果たす役割は大きいと考えた。
さて、大きな桶のなかから海草アマモの種を採取して、その種を海に植えるというダイビング・プログラムは、目からうろこで驚いた。ここ吉里吉里(きりきり)海岸海水浴場は、国際NGO FEE(国際環境教育基金)による国際環境認証「ブルーフラッグ認証」を取得した。きれいで安全で、誰もが楽しめる優しいビーチであることが、国際基準で認められた。
米国の専門誌「スキューバダイビング・マガジン」で、Sea Heroesの称号をもつ“くまさん”こと佐藤寛志さんが、出迎えてくれた。ダイビングショップを営む大船渡から吉里吉里へと駆けつけてくれ、ツアー参加の外国人にダイビングの手ほどきをしてくれたのである。三陸ボランティアダイバーズの仲間たちや撮影隊もいる。タイをはじめ世界の海で活躍する海のヒーローの登場に胸が熱くなった。
モニターツアーは、ほかにも多面的で魅力ある内容で構成された。例えば、松永いづみさんが代表を務める「NPO法人吉里吉里国」では、海水を運び、まきをくべて炊飯、調理するサバイバル体験に参加した。まき割りから火おこし、調理や食器選びのノウハウまで教えてくれた。(そうなんだ。こうやるんだ)と、海水からの炊飯や火をおこすときのレンガや石の積み方を知ることができた。
また、大槌の郷土芸能「虎舞(とらまい)」の鑑賞は、その迫力に感激した。子どもから大人まで、真剣な表情で演じるさまは、この地が度重なる自然災害にも屈せず、復興を遂げてきたことを裏づけた。
ところで今年は筆者も、行く先々で野生の熊や鹿に遭遇した。夜の観光「大槌ナイトサファリ」では、夜行性の鹿の行動をバス車窓からウォッチ。住宅街や田畑に驚くほど多くの野生の鹿がいて群れをなしていた。この害獣被害を森の恵みへと転化させた「MOMIJI」の大槌ジビエ開発は、命の循環そのものだ。解体工場を視察した。
流暢な英語でツアーをまとめた「(一社)おらが大槌夢広場」の代表・神谷未生さんは、国際看護士として震災直後に大槌に入り、縁あって当地に根を張った。彼女の震災伝承に外国人は熱心に耳を傾けた。
大場夫妻、いづみさん、未生さんたちが奏でる“大槌愛”の旋律が、来訪者の心を打つ。本事業を成功させて、次の高みをめざすことだろう。
(淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子)