
多くの中小規模旅館経営者が直面している深刻な問題があります。「資金が足りなくなると銀行から借りる」という習慣が続き、気がつくと借入金の返済額が膨らみ、毎年数千万円を借りなければ経営が回らない状況に陥ってしまうケースです。コロナ禍での政策融資や設備投資資金も加わり、返済負担は一気に増加しました。
このような状況が続くと、銀行からの新規融資が困難になる可能性があります。だからこそ、借り入れ依存体質から脱却し、本業の収益で返済できる健全な経営体質に転換していくことが重要なのです。
資金繰りが厳しくなるたびに運転資金を借り続けた結果、次のような悪循環に陥っていることはありませんか。
・借入金の口数が増加し、月々の返済額が膨らむ
・返済のために新たな借り入れが必要になる
・収益性が改善されないまま、借入残高だけが増加している
預金通帳残高を見ても「本業で稼いだお金」と「借りたお金」が混在しているため、本当に使えるお金がどれだけあるのかが分かりません。これが資金繰りを悪化させる根本的な原因の一つです。
借り入れが実行された段階でほっとしてしまい、現預金が増えたと安心する。この繰り返しが、借り入れ依存体質を深刻化させていくのです。
まず、自館の借り入れ依存がどの程度あるのかを調べてみましょう。以下の手順で実態を「見える化」します。
ステップ1:基礎データの整理
ここ1年間の各月末の預金残高を一覧表にしてください。さらに月次入出金の差額を一覧表にします。これがプラスならば翌月の残高は前月より増加しています。反対に差額がマイナスならば、翌月の残高は前月残高よりその分マイナスになります。
ステップ2:運転資金借り入れの抽出
次に、この期間に運転資金を借りた月と金額を算出します。これが月次入出金の金額に含まれています。
ステップ3:「もしも借り入れがなかったら」のシミュレーション
ここが最も重要な作業です。仮にこの運転資金が投入されなかったとしたらどうなるか? この運転資金借入額を当該月の入金額から差し引き、当月の入出金額を計算してください。
例えば年に3回運転資金を借りたとしたら、その分の借入額を引いて、月次の預金残高一覧表を作成するのです。
おそらく、資金ショートを繰り返した結果になるはずです。これがわが宿の実態なのです。
このようなシミュレーションを過去3年間について抽出してみてください。同じような傾向がありませんか。
現在、運転資金借入金額が仮に年間2千万円だったとしましょう。次のような段階的な目標を立てます。
1年目:年間借入額を1千万円に削減
2年目:年間借入額を500万円に削減
3年目:運転資金借り入れをゼロに
つまり、3年で運転資金借り入れ依存体質からの完全脱却を目指す数値目標ができます。
この目標設定により、漠然とした「改善したい」という思いが、具体的で測定可能な経営指標に変わります。
借り入れ依存体質からの脱却は、一朝一夕には実現できません。しかし、現状を正確に把握し、明確な目標設定と継続的な改善努力により、達成可能です。
重要なのは、毎月の数値をしっかりと追跡し、目標との差異を分析して、必要な修正を加えていくことです。この地道な積み重ねが、健全な経営体質の構築につながります。
失敗の法則その70
資金繰りが厳しくなるたびに運転資金借り入れを繰り返す。
その結果、借入残高が年々増加し、返済が経営を圧迫してくる。
そこで、借り入れ依存体質の数値化を実施し、脱却の目標設定をしよう。
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