【脱炭素でスマートな旅館 国際観光施設協会エコ・小委員会 58】インフラとしての構造躯体


工場を除く非住宅建築ストック(国土交通省統計データより作成)

 日本には膨大な建築ストックが存在し、環境負荷や財政負担の軽減等の観点から、建築ストックの長寿命化・長期活用が強く求められている。1973年竣工の中野サンプラザの再開発が、建設費高騰で計画見直しになったように、土地価格の高い都市部でも建て替えによる経済的メリットが失われている。

 旅館は1980年から90年代にかけて軒数が8万3千軒、客室数が102万室と最も多くなり、その後減少に転じているので、1990年ごろまでの建物ストックが多く、1981年以前の旧耐震基準の建築も多く存在する。現在の経営者にとっては1世代、2世代前の建築物で、どのような地盤に、どのような経緯で建設されたのか伝わっていないことが多い。当時の確認申請書、検査済証、それに添付されている構造計算書、構造図がないと建物の資産価値にも影響するので注意したい。

 建物のインフィル・スケルトンとは、内装・設備と構造躯体に当たる。インフィルに当たる内装は、旅館の商品そのもので時代と経営方針に合わせて更新される。設備については、ボイラーやポンプなど可動部のある機器は15年から20年、受変電設備、配管等は30年で更新時期になる。

 インフィルに当たる部分は目に見え問題が生じ理解しやすいが、スケルトンに当たる構造体については、災害でも起きないかぎり顕在化せず、耐用年数も倍近く長いので関心が向かない。日本建築センターでは耐用年数の評価は「鉄筋コンクリート造の構造体の最外側鉄筋のコンクリートの中性化が達しない期間を耐用年数として評価する」としている。一般的には、屋外側の鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ30ミリまで中性化が進むのに60年掛かることから鉄筋コンクリートの耐用年数を60年としている。

 耐震診断でコンクリートのコア抜きをして調べると、中性化が思ったほど進んでいないのが実状だ。それよりも問題なのがジャンカなどの施工不良や、改修で鉄筋が切断されるなど構造上の欠陥が見つかる頻度が高く、耐震改修時に是正することが多い。

 構造の設計基準も1971年、1981年、1995年と大地震があるたびに大きく変わり、特に1970年以前の建物は注意が必要と思っている。高度成長期の建物も法定耐用年数50年を超えてきており、耐震診断・耐震補強を行い、防水、外壁改修と適正にメンテナンスを行いたい。鉄筋コンクリートはメンテナンスをすれば100年は持つと言われている。構造躯体は、持続可能な経営を目指す上で、重要なインフラだと改めて認識したい。


工場を除く非住宅建築ストック(国土交通省統計データより作成)

(国際観光施設協会理事 エコ・小委員会委員長、日本建築家協会登録建築家、佐々山建築設計会長 佐々山茂)

 
 
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