【口福のおすそわけ 553】おいしい山形 ~後編~ 竹内美樹


竹内美樹の口福のおすそわけ

前号に続き、先月山形県かみのやま温泉「日本の宿古窯」にて盛大に開催された、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会元会長で、古窯グループ会長佐藤信幸氏の旭日小綬章受章祝賀会のお食事について。

メインはぜいたくにも「特選山形牛のステーキ」と「特選山形牛の山椒(さんしょう)しゃぶしゃぶ」の2品が振る舞われた。しゃぶしゃぶ用生肉が提供されると、霜降りの見事さに会場がざわめいたほど。

実は、古くから米沢など置賜地域では、南部地方(岩手県)から「上り牛」と称して農耕目的で牛を導入しており、そのかたわら肉用牛の肥育も行っていたそうだ。

その米沢牛のおいしさを、上杉鷹山公が創設した藩校「興譲館」の英国人教師ヘンリー・ダラス氏が広め人気を博し、その後県内全域に牛の肥育が普及。飯豊牛・西川牛・天童牛・東根牛・尾花沢牛など数多くの銘柄牛が生まれたことから、品質規格の統一を図るため、昭和37年に「総称山形牛」として、「山形県内で最も長く肥育・育成された黒毛和種で、未経産の雌牛および去勢された雄牛」「公益社団法人日本食肉格付協会が定める肉質3等級以上のもの」という定義が決められた。

夏は暑く冬は寒い山形県、昼夜の寒暖差も大きく、その分牛がゆっくり成長するので、肉質がきめ細やかで、サシも奇麗に入るという。脂肪の融点が低く口溶けが良い上、甘みもうま味もあるのが人気のヒミツ。

締めは同グループあつみ温泉「萬國屋」名物鯛(たい)めしと、舞台上で実演されていた上山市無形文化財「高松観音餅つき」の餅入り雑煮。大人数が参加できるよう、細長い棒状の「千本杵」を使い、搗(つ)きあがった餅を杵(きね)で空中高く突き上げる独特の形式は、江戸時代から伝えられているそうだ。

お食事に添えられた沢庵(たくあん)は、諸説あるが、上山市発祥といわれる。同館から徒歩圏内にある県の重要文化財「春雨庵」は、1629年上山に配流された沢庵禅師が3年間過ごした場所(1953年再建)。地元民に愛された和尚にさまざまな作物が届けられ、食べ切れないほど大量の大根があったため、保存食の「たくわえ漬け」にしたのが沢庵漬の始まりとされる。同所には「沢庵漬名称発祥の地碑」が建立され、現在も毎年沢庵和尚の遺徳をしのぶ供養祭が営まれ、干し大根の漬け込み式も行われている。

同じお皿に盛られていたのは、桜桃の漬物と近江漬け。サクランボは山形の特産品で、漬物は通年楽しめるが、シーズンではないのにお造りに美しい佐藤錦が添えられていたのには驚いた。近江漬けは山形伝統野菜「山形青菜」の漬物。漬物まで郷土料理尽くしだなんて、山形の底力はスゴイ! デザートは同グループがプリンに特化した専門店「山形プリン」の東根産イチゴとジュレプリン。

山形県産食材や郷土料理の豊富さは、想像をはるかに超えていた。それを生かせる同館も素晴らしい。改めて佐藤会長にお祝い申し上げるとともに、今後ますます同グループに注目したい。

※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
 
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