【専門紙誌5社共同企画】「地方創生」の基本構想と今後の方向性 増田寛也氏(ふるさと回帰・移住交流推進機構会長)に聞く


増田寛也氏

 観光経済新聞、東京交通新聞、塗料報知、農村ニュース、ハウジング・トリビューンの専門5紙誌では、2025年度の共同キャンペーン企画として「地方創生の出発点~“人”を生かす~」を展開する。「地方創生2.0」が打ち出される中、地方創生を若者、女性、外国人という「人」に焦点を当て掘り下げる。1回目のインタビューは、2014年に大きな注目を集めた「地方消滅」の著者であり、長く地方創生に携わってきた増田寛也氏に、「地方創生2.0」や、今後の地方創生の方向性などについて話を聞いた。

地方経済の崩壊食い止めへ 若者が希望を持てる将来描け

 ――先に閣議決定された「地方創生2・0基本構想」をどのように見ているか。

 これまで地方創生に10年間取り組んできたが、なかなか成果につながらなかった部分があった。日本の総人口が2008年をピークに減少を始め、2014年に「地方創生」がスタートするわけだが、今から思えば、人口数にとらわれてしまったことは否めない。出生数を急激に増やすことは難しい、だったら移住してもらおうとそれぞれの自治体が数字目標を掲げ優遇措置を設けるなどの取り組みを進めた。しかし、人口を増やす仕組みづくりではなく、人数増加の結果を出すという考え方であったため人口の奪い合いのような側面があった。自治体だけでなく国もそのように考えていたところがある。

 もっと奥に潜む課題にアプローチしていかなければいけない、行政だけではなく地域を含めた全体で危機意識を共有して取り組む必要がある―これが今で言う「地方創生1.0」の大きな反省点だと思う。

 「地方創生2.0」では、こうした反省点がだいぶ修正されたと思う。「若者や女性にも選ばれる地域」を大きく掲げ、アンコンシャスバイアスの解消に力を入れるなど「地方創生1.0」とはトーンがだいぶ変わっている。

 6月に閣議決定された「地方創生2.0」は基本構想であり、年末をめどにまとまる予定の「総合戦略」において、各省庁からの具体的な施策でどのように肉付けされていくかに注目している。

 「地方創生2.0基本構想」では、「当面は人口・生産年齢人口が減少するという事態を正面から受け止めた上で」と表現し、聞きようによっては、人口減少は仕方ないとも受け取られるかもしれないが、決して対策を放棄したわけではない。人口減少のカーブを少しでも緩くし、できればどこかの時点で止めたいという視点は変わっていない。若い人たちにアンケートを取ると、子どもは2人くらいほしいとの回答が多い。こうした気持ちに応えることが人口減少を食い止めることにつながる。

 この人口減少問題に加えて、地方経済が崩壊するほどの冷え込みをどのように食い止めることができるか。この政策的に異なる二つの目的を、財政的な制約の中で皆が知恵を出し合ってバランスよく進めていく必要がある。

 ――反省点として「人口の奪い合い」という言葉もあったが、増田さんは先に公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構の会長に就任された。「地方創生2.0基本構想」では、関係人口増加を強調し、2地域居住の推進を盛り込んでいる。関係人口増加と移住推進をどのように捉えているか。

 最終的には地方に移っていただくことが究極の目的だと思う。住民の数によって住民税の収入が決まり、それが地域のさまざまなサービスの原資となり成長の元になる。また、地域住民にしても、住民票を移すことは「この人たちは将来までずっと居続けてくれる、それなりの覚悟を持っている」とみなすだろう。実際にその地域に住むということが重要だ。

 ただ、年齢や環境条件などの制約で必ずしも皆が移住できるわけではない。その間をうまくつなぐのが関係人口であり2地域居住なのではないだろうか。2地域居住を移住・定住の一歩手前、入り口のような位置付けとし、その地域が気に入って一生涯住もうとなったら移住するというように、首都圏から地域へという流れが少しでも強まっていくことが一番望ましいと考えている。

 関係人口や2地域居住は、これまであまり深掘りして議論されてこなかった。国土交通省が「二地域居住促進法」をつくり推進しているが、まだ少しパンチに欠ける。補助金も重要だとは思うが、制度的な位置づけや仕組みが必要だ。例えば、国が検討している「二地域住民票」を制度化すればもっと広がるだろう。2カ所目に住民票を置くことができれば公的な位置づけになる。もちろん、納税、選挙権の議論のハードルは高いが、そこまで制度を詰めていくことが、2地域居住を進める上での政府の覚悟なのではないだろうか。住民票そのものでなくても「地方創生2.0基本構想」で打ち出した「ふるさと住民登録制度」のように公的な居住証明書のようなものを発行し、ふるさと納税を活用してお金が落ちるようにし、自治体の公共サービスを受けられるような仕組みを制度化し、それを各自治体の判断で取り組むようにすればよいと考えている。

      ◇
 ――「若者や女性にも選ばれる地方」について、これまでも地域に仕事を作る取り組みが進められたが、首都圏の人口集中は若者が中心となっている。

 地方に受け皿となる仕事を作ることが基本で、これまでもいろいろと取り組まれてきた。しかし、単に仕事の”場”を作るだけではだめで、そこでの働き方の中身を掘り下げていく必要がある。若者、特に女性の立場が非常に不安定で、男女差や地域差による賃金格差が目立つなどアンコンシャスバイアスが存在する。地方ほど、職場でのお茶くみやゴミの片づけなどが女性に押しつけられているとアンケートでもはっきり出ている。もちろん、企業の方々も男女差別をしているつもりはないと思うが、地方の若者たちの閉塞(へいそく)感は非常に強い。「地方創生2.0」では、そうした部分まで掘り下げ、若者や女性が地域で本当にのびのびと働くことができ、子育てができる環境を整えてほしいと思っている。

 仕事や子育てについて、すぐに思いつくようなことは国が支援し、自治体が力を入れ、企業も取り組んできた。ただ、課題はその先にある。上から押し付けるのではなく、うまく包み込むような、寄り添った対策が必要で、これまでの日本社会はそうした視点が欠けていた。若者や女性に選ばれるためにどうすればよいのかを真剣に考えていかなければならない。

 データを見ると、特に地方から東京に出てきた女性は故郷に帰らない人が多い。やはり閉塞感が強いのだろう。そこに気づき、どうするか。私は行政よりも企業の役割が大きいのではないかと思う。もちろん自治体も考えていかなければならないが、商工会議所や農協といった地域のステークホルダーが中心となり、地域の皆で考えるべき課題だと思う。「総合戦略」における具体的な施策についても、各省庁の縦割りではなく、内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部で横ぐしを通し、若い人たちが希望をもてる将来を描けるようにしていかなければならない。

      ◇

 ――地域産業の面から、また、関係人口増加の入り口という意味からも地域活性化に観光業が重要になると考えられる。

 今、日本は非常に暑くなり「四季じゃなくて二季だ」とか言われるものの、やはり四季の豊かさが大きな魅力。その自然の豊かさをはじめ、これだけの観光資源を持つ国は世界的にも有数だと思う。

 しかし、今、かなりの老舗旅館でもその稼働率は8割程度だという。聞くと、インバウンドが急増したこともありお客さんは多く訪れるがバックヤードが回らない、フル稼働するとサービスの質が落ちてしまうと話していた。

 以前から時間帯や曜日などきめ細かなシフトを組むなど、働き方の柔軟性について取り組まれているが、こうしたことをもっと進めるべきだろう。また、よく言われるマルチタスク、1人で何役もこなすようにすることも必要だ。DXを進めていくと同時に、働き手一人一人のスキルに応じて働き方を柔軟に組み合わせていく必要があると思う。

 昔と違い、何冊もガイドブックを持ち歩く時代ではない。外国の方でもスマホ1台で日本の詳細を知ることができ、ナビアプリを使ってレンタカーでどこにでも行ける。観光の仕方もツアーではなくファミリーや友人同士。オーバーツーリズムの問題も出てきてはいるが、やはり観光業のメインターゲットはインバウンドだろう。だからこそ、外部に向けての情報発信がさらに重要になる。

 日本の伝統文化、文化財などの観光資源をもっとうまく活用するという発想もよいと思う。岡山城(岡山県岡山市)天守閣の夜間貸し切りサービス、大洲城(愛媛県大洲市)の貸し切り宿泊といった例も出始めている。また、地域の食や伝統織物などの産品といったさまざまな地域資源に結びつけることも大事だ。そこにライドシェアなどを含め交通インフラを考えていく。

 もう一つ、自治体が違うと隣の情報が全然入ってこないという課題が指摘され、横の連携や広がりが取り組まれてきているが、もっと推し進めるべきだと思う。複数の自治体や観光協会が広域で取り組むことをぜひ進めていただきたい。

 「地方創生2.0」は国の取り組みだが、実際に一番大事になるのは地域。それぞれの自治体、地域でどれだけ掘り下げた議論ができるかが問われる。


◇増田 寛也氏(ますだ・ひろや)1977年に東京大学法学部卒業、建設省入省。1995年に岩手県知事、2007年に総務大臣、内閣府特命担当大臣、2009年に野村総合研究所顧問、2020年に日本郵政株式会社社長。2025年に現職。

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒