
逆境をチャンスにー旅館の再生プラン
前回コラムでは、「誰が」「いつまでに」「何を」「どの手順で」行うのかアクションプランにおいて明確に定めることが、現場に根差した計画の実効性を高めるポイントであると説明した。今回は、各部門から提出された素案を具体的かつ実行可能な計画へと練り上げていく過程について説明したい。
たとえば、食材原価の低減を目指す場合、取るべき手段は一つではない。仕入先との価格交渉や新規業者の開拓、安価な代替食材の活用、大量発注による単価の引き下げ、レシピやメニューの見直し、食材ロスの削減、提供分量の見直しなど、複数の手段が考えられる。最近では、仕込み作業を外部に委ねることで調理人の不足を補い、人件費の圧縮につなげる手法も有効な手段として活用されている。
この段階で重要なのは、はじめから手段を一つに絞り込むのではなく、現場の知恵や外部専門家の意見を集めて実現可能性を丁寧に検証していく姿勢である。仕入先の変更を例にとっても、取引先の事情や市況の変化に左右される部分が大きく、交渉が不調に終われば計画そのものが頓挫しかねない。小規模な試行や交渉を重ねながら、実行可能性を見極める地道な取り組みが欠かせない。
金融機関などに提出するアクションプランは、こうした検証を踏まえたうえで、確実に実行できる内容に仕上げることが望ましい。提出後には進捗(しんちょく)の確認も行われるため、実現困難な施策を盛り込むのは避けるべきである。むしろ、実行確度の高い施策を積み上げていく方が、計画全体の信頼性を高めることにつながる。
リニューアル投資など設備資金を必要とする施策については、拙速な判断を避け、慎重に検討を進める必要がある。建設需要の高まりを背景に、工事費は上昇を続け、質の高い請負先の確保も難しい状況にある。こうした環境下で準備を整えないまま着手すれば、想定していた成果を十分に得られない恐れがある。必要な検討期間を確保し、発注や工期の設定を段階的に進めるといった工夫も有効である。
投資計画を立てる際には、投資効果を冷静に見極めたうえで、中長期の収支見通しや資金繰り計画もあわせて策定すべきである。自己資金で対応する場合は、投資回収期間を柔軟に設定できるが、金融機関からの借り入れを利用する場合は返済義務が生じる。返済期間を過度に短く設定してしまい、資金繰りに余裕がなくなる例は後を絶たない。融資はあくまで提出された計画に基づいて実行されるものであり、その結果に対する責任は経営者自らが負うという原則を常に意識しておきたい。
(アルファコンサルティング代表取締役)