「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産への2028年登録に向けた提言


2023年4月 有識者検討会「温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録に向けた検討会」が初会合

日本人に根付いている社会的慣習=温泉文化
担い手は、国民、旅館・ホテル、地域、湯守

 日本温泉協会(多田計介会長)は、日本の固有の文化である「温泉文化」の保護・活用・発信を図り、次代へとつないでいくため、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産の2028年最短での登録を目指し、活動している。

 「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録に必要となる、「温泉文化」の定義や保護措置等について、有識者で構成する「温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録に向けた検討会」(青柳正規座長)で取りまとめた。

 温泉文化の2028年のユネスコ無形文化遺産登録に向け、温泉文化の定義および提案書に記載される項目等について検討し、整理を行った。

 ただ、提案書の作成にあたっては、「関係機関等でさらなる検討や調整が行われることが期待される」としている。

  提言の内容は次の通り。
◇                ◇
「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産への2028年登録に向けた提言
令和7年7月29日
温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録に向けた検討会
はじめに

 「温泉」は、豊かな自然の恵みであり、日本全国の各地域にあって、古より人々の心身を癒やしてきた、日本人にとって「心のふるさと」とも言える不可欠な文化である。長い歴史を有する、日本固有の文化であり、世界に誇るべき文化である。

 全国に温泉地は2,857箇所、旅館・ホテル等は13,179施設、公衆浴場施設は7,746施設ある(※令和5年度温泉利用状況〈環境省〉)が、現在、人口減少や高齢化、後継者不足等により、温泉地とそれを取り巻く「温泉文化」が危機にさらされている。特に、和倉温泉(石川県)では、地震発生から1年半が経つが、20数軒あった旅館・ホテルのうち営業を再開できた施設はわずか5軒にとどまっている。

 他方で、インバウンド需要の高まりの中、海外からは日本の「ONSEN」が注目されている。

 こうした中、「温泉文化」を次代へと守り伝えるため、温泉の持つ文化的価値を評価し、2028年のユネスコ無形文化遺産登録を実現させようと、多くの声があがっている。

 当検討会は、令和5年4月に発足し、令和5年7月11日には、「温泉文化」に係るユネスコ無形文化遺産への早期登録へ向けた提言(中間とりまとめ)を公表した。この中間とりまとめでは、温泉文化の定義付けや法的保護装置の整備、調査研究の必要性などの課題を提起した。

 この提言を受けて、「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会では、令和5年度に全国の旅館・ホテルや団体に対する悉皆調査(1次調査)、令和6年度に1次調査を踏まえた深掘り調査(文献調査、全国15温泉地の現地調査、国民意識調査)が実施された。

 こうした調査研究結果等を踏まえて、当検討会では、計8回に及ぶ検討会で議論を重ね、この度、温泉文化の「定義」、「実践者・担い手」、「保護措置」に関する提言を行うに至った。

 なお、これは現時点における検討会としての考え方を取りまとめたものである。本提言を基に、国の保護措置をはじめとした個々の詳細について関係機関等での十分な協議・調整が行われること、そして「温泉文化」が国の無形文化遺産目録に記載され、2028年にはユネスコ無形文化遺産に登録されることを期待する。

1.温泉文化の「定義」
 日本人は、温泉を訪れて入浴することを通じ、四季を感じ、自然と交わり、神を感じることで、心の癒やしを得てきた。そして温泉の効能により体の癒やしを得てきた。「温泉文化」は、「自然の恵みである温泉に浸かり、心と体を癒やす」という、日本人に根付いている社会的慣習である。

 日本は火山国で水資源にも恵まれ、国土の中に、約28,000本の源泉と、約2,900箇所の温泉地(宿泊施設のある場所)、約7,700箇所の公衆浴場(温泉利用の施設)を有する、世界に類のない温泉大国となっている。

 温泉と日本人の関わりの歴史は古く、現存する日本最古の書物である「古事記(712年)」にもその記述がある。日本人は温泉の持つ効能に気づき、神からの授かり物として温泉を崇め、信仰の対象として祀ってきた。また、その恵みに感謝する祭・神事は今も各地で続いている。

 温泉入浴は、単に体を清潔にするためだけのものではない。日本人は一般的な入り湯だけでなく、自然を活かした伝統的な入浴方法(温冷交互浴、蒸気浴、うたせ湯、寝湯、泥湯、砂湯等)を編み出し、医学の未発達の時代から、温泉の効能を享受してきた。温泉地に長期滞在し、その効能で療養や休養を行う湯治慣習は、現在も一部地域で残っている。また、その効能を解明するため、温泉の医療的効果の研究や温泉分析等を続けている。

 温泉に浸かるための施設(旅館・ホテル、公衆浴場等)は、日本のあらゆる場所に存在し、源泉を中心としてその地域や自然を活かした温泉街も形成されている。旅館・ホテル、公衆浴場等は、地域コミュニティとともに温泉文化を守り、継承してきた。

 「温泉文化」は社会的慣習として、時代が変遷しても、代々受け継がれており、日本人としてのアイデンティティを再認識させるものである。

※温泉:「温泉法(昭和23年法律第125号)」第2条第1項に規定する温泉を指す。

2.温泉文化の「担い手・実践者」
【実践者・担い手】
・日本の人々:温泉の湯に浸かり、心と体を癒やす実践者であるとともに、温泉を利用することにより慣習として続いていくことから、担い手でもある。
【担い手】
1)旅館・ホテル、公衆浴場
:温泉の提供を担う、伝統的な入浴方法による温泉の提供を担う
2)地域コミュニティ
1.源泉の管理団体等
:自然の恵みである温泉の適正な利用、安全・快適、安定的な供給を担う
伝統的な入浴方法による温泉の提供を担う
2.温泉協会・組合等
:温泉文化の情報提供や温泉の研究、記録を行う
祭・神事の実施
3)湯守
:源泉・配湯・浴場の適正な管理を担う
伝統的な入浴方法による温泉の提供を担う
※高温や強酸性・強アルカリ性、様々な成分を含む湯を、安全・快適かつ安定的に利用できるようにしてきた。
3.温泉文化の「保護措置」
※各項目は例示であり、更なる検討が期待される
(1)国・地方自治体レベル
・温泉法・条例:温泉資源の保護、災害防止、利用の適正化
・旅館業法・公衆浴場法・条例:浴場の構造設備、適正配置、衛生・風紀基準
・文化財保護法・条例:温泉地の有形文化財(温泉神社、旅館)、無形民俗文化財(祭・神事)、名勝等
・温泉地の活性化策や支援策など 等
(2)全国規模の団体レベル
・温泉関連団体(温泉や旅館・ホテル等の協会など)
:温泉資源の保護、温泉利用の適正化、温泉文化の研究、イベント開催、出版物発行など
・温泉研究団体(学会、研究機関など)
:温泉地に関する総合的な研究、研究会・発表大会開催、会報発行 等
(3)担い手レベル
・旅館・ホテル、公衆浴場施設
・地域コミュニティ(源泉の管理団体、温泉協会・組合等)
・湯守 等

温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録に向けた検討会委員
【委員】 ※敬称略、50音順
青柳正規(多摩美術大学理事長、「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産推進協議会会長、元文化庁長官)=座長
井上善博(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会会長)
桑野和泉(日本旅館協会会長)
新谷尚紀(国立歴史民俗博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授)
多田計介(日本温泉協会会長)
長島秀行(中央温泉研究所顧問)
林真理子(日本文藝家協会理事長、日本大学理事長)
平井伸治(「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産登録を応援する知事の会会長、鳥取県知事)
【専門委員】 ※敬称略、50音順
石川理夫(日本温泉地域学会会長、温泉評論家)
内田彩(東洋大学国際観光学部准教授、日本温泉協会学術部委員)
小堀貴亮(杏林大学外国語学部観光交流文化学科教授、環境省「国民保養温泉地」専門家委員)
前田眞治(日本温泉科学会会長、国際医療福祉大学名誉教授)
松田法子(京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授)
【オブザーバー(官公庁)】 ※建制順
文化庁参事官(生活文化創造担当)
厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課
観光庁観光地域振興部観光資源課文化・歴史資源活用推進室
環境省自然環境局自然環境整備課温泉地保護利用推進室


2023年4月 有識者検討会「温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録に向けた検討会」が初会合

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