【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 756】既成概念を疑う経営術(4) 青木康弘


逆境をチャンスにー旅館の再生プラン

 旅館・ホテルの客層転換を進めるには、「コンセプトの一貫性」と「運営の整合性」が重要である。どの宿泊客を対象に、どのような体験価値を提供するのか―。この軸があいまいなままでは、設備投資も商品開発も断片的となり、結果として誰からも選ばれない施設になってしまう。

 かつての団体旅行全盛期においては、大量受け入れ型の効率重視のオペレーションが合理的であり、運営手法としても一定の成功を収めてきた。しかし、現在は旅行スタイルの個人化・多様化が進み、宿泊客が旅館・ホテルに求める期待は大きく変わっている。SNSやレビューサイトが普及した今、宿泊客は全国の施設を容易に比較し、価格だけでなく「体験の質」や「施設の独自性」を重視して宿を選んでいる。

 それにもかかわらず、過去の成功体験にとらわれ、団体向けの効率優先型オペレーションを個人客にも適用し続ける施設は少なくない。作り置きの料理提供や定型的な接客は、現代の個人客が求める柔軟で温かみのある体験とは乖離(かいり)しており、結果として満足度を損ねる要因となる。これは単なる運営上の習慣の問題ではなく、経営層の意識改革が追い付いていないことの表れでもある。

 特に事業承継の場面では、先代の団体型運営モデルと次世代の個人客志向との間で方針が揺らぎやすく、そのままでは現場に混乱を招きかねない。だからこそ、経営の方向性を整理し、役割分担と権限移譲を明確にしながら、一貫した運営方針を構築することが不可欠である。

 加えて、今日の旅行市場では、単なる宿泊の提供にとどまらず、「滞在」「体験」「交流」「物語化」といった要素を組み合わせた価値創出が求められている。地域の文化や歴史、自然や食といった資源を生かしながら、一貫した世界観を形成することができれば、それ自体が施設のブランディングとなり、宿泊客からの評価と支持を高めることにつながる。

 客層転換とは、単なる営業手法の見直しではなく、施設の存在意義を問い直す取り組みである。過去の延長線ではなく常にお客さま視点に立ち返り、スタッフ一人一人が新たな価値づくりに挑戦できる組織文化を築くこと―。その積み重ねこそが、旅館・ホテル経営の持続的な成長を支える最も重要な基盤となる。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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