インバウンド受け入れ課題、依然として「人材不足」が最上位


 一般社団法人日本旅行業協会(JATA)は9月23日、「第4回インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査」の分析結果を公表した。調査は全国の旅行・観光関連事業者を対象に7月1日から24日まで実施し、1107件の回答を得た。調査では、国内の観光業界における訪日外国人観光客(インバウンド)の受け入れ状況や課題、今後の展望などが明らかになった。

観光業界全体が抱える「人材不足」

 調査結果によると、旅行会社や輸送業者など観光関連事業者がインバウンド受け入れにあたって直面している最大の課題は「人手不足や人材不足」だった。この課題は前回調査に比べ改善傾向が見られるものの、依然として最上位に位置している。

 インバウンド受け入れ予定がない理由や課題については、「人手不足や人材不足」が最多の回答となった。次いで「インバウンドを受け入れる余裕がない」「多言語インフラ整備が不十分」「外国語対応スタッフの雇用」などが上位を占めた。

 特に輸送業者や旅行会社においては、この人材不足の問題が深刻化。現場では外国語対応できるスタッフの確保や、増加するインバウンド需要に対応するための人員配置に苦慮している実態が浮き彫りになった。

回答者の構成と特徴

 今回の調査では、回答者総数は1107件と前回とほぼ同規模だった。業種別では旅行会社が333件(30%)、輸送業者が276件(25%)と両者で全体の55%を占めた。前回調査と比較すると、これらの割合は減少傾向にある。

 一方で、観光施設からの回答は51件となり、前回調査から増加。全国通訳案内士などの回答も増え、旅行・輸送・宿泊の3事業者の比率は前回の75%から66%に減少した。より多様な観光関連事業者からの回答が集まり、インバウンド観光の裾野の広がりを示す結果となった。

インバウンド観光客の受け入れ状況

 インバウンド観光客の受け入れ延べ人数については、「10万人未満」と回答した割合が全体の67%を占めた。一方で「100万人以上」の回答も3%あり、インバウンド受け入れ規模の二極化が進んでいることが示唆された。

 前年比での観光客数の受け入れ状況では、全体(国内旅行を含む)、インバウンド観光客数ともに「2024年とほぼ同等水準」という回答が最も多かった。ただし、「110%以上」と回答した割合は全体が23%、インバウンドが35%と、インバウンド回復がより進んでいることが明らかになった。一方、「70%未満」の項目ではインバウンドの方が全体より高い結果となり、回復状況の二極化も進んでいると考えられる。

インバウンド観光客の訪日傾向

 インバウンド観光客が特に多い時期については、「春季(桜のシーズン・イースター)」(50%)と「秋季(紅葉のシーズン)」(48%)が突出して高かった。これは前回調査でもそれぞれ45%、42%と高い割合を示していたが、今回さらに上昇している。春と秋への観光客集中がより進行していることがうかがえる。

 旅行スタイルについては、「個人レジャー」(70%)と「団体レジャー」(67%)が上位を占め、これらは前回調査からいずれも上昇した。「MICE」(企業インセンティブ・国際会議・見本市など)、「学生団体」「個人ビジネス」「スポーツ団体」などの項目も前回より増加している。

注目される観光コンテンツ

 国内旅行、インバウンドを問わず、新たに発達した、あるいは力を入れている旅行・観光関連コンテンツについては、「高付加価値旅行」(27%)と「ガストロノミー(美食・食文化)」(18%)が前回調査同様に高い割合を示した。また、今回新たに選択肢に加えられた「スポーツツーリズム」(10%)は「スノーツーリズム」(9%)を上回る結果となった。

 自由記述回答からは、日本の伝統産業や文化体験、日本庭園や日本遺産巡りなどのコンテンツが多く挙げられた。また、アニメやゲームを通じて育まれているサブカルチャーやオタク文化関連の回答も一定数得られた。その他、MICE関連、教育研修旅行、自然・アクティビティ系のコンテンツも人気を集めている。

2030年目標への取り組み状況

 観光庁が掲げる2030年の目標(訪日外国人旅行者数6,000万人/消費額15兆円)については、回答者の54%が目標を設定していると回答した。しかし、「すでに具体的な施策を実施している」と回答したのは17%にとどまった。

 事業者別では、旅行会社ならびに自治体・観光協会が他の事業者より具体的な施策の実施が進んでいる状況が明らかになった。具体的な施策としては、「受入体制(人材確保・育成、設備改善など)の拡充」(48%)が最も多く、次いで「地域コンテンツの開発」(38%)、「高付加価値化・サービス開発」(35%)が続いた。

インバウンド重点市場の動向

 現在のインバウンド重点市場については、「台湾」(51%)が最も高く、「中国」(37%)、「北米」と「欧州」(いずれも32%)が続いた。前回調査と比較すると、中国市場が回復傾向にあることがうかがえる。

 将来のインバウンド重点市場については、「欧州」(21%)、「東南アジア」(19%)、「台湾」と「オセアニア」(いずれも17%)、「北米」(16%)となり、より多様な市場開拓の傾向が見られた。また、「特にない(国・地域を問わない)」との回答が45%あり、特定市場に偏らず広く受け入れ拡大する傾向も示された。

予約チャネルの変化

 インバウンド観光客の予約チャネルについては、「日本の旅行会社、旅行サービス手配業者」(49%)と「海外旅行会社」(41%)が上位を占めた。ただし、いずれも前回調査より比率が減少傾向にある。

 OTA(オンライン・トラベル・エージェント)については、今回調査から国内と海外に分けて調査を実施。「海外OTA経由」(24%)が「国内OTA経由」(14%)を上回る結果となった。これは訪日外国人がより自国で使い慣れたOTAを通じて予約する傾向があることを示唆している。

 調査結果からは、インバウンド市場の回復と変化、そして業界が直面する課題が鮮明に浮かび上がった。特に人材不足の問題は依然として最大の課題であり、今後の6000万人受け入れに向けた体制強化が急務となっている。

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒