【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 754】既成概念を疑う経営術(2) 青木康弘


逆境をチャンスにー旅館の再生プラン

 旅館・ホテルにおける客層転換を進めるには、まずターゲットとなる顧客層のニーズを丁寧に分析し、館内設備やサービスのあり方を根本から見直すことが求められる。前回では、経営者自身の過去の成功体験が最大の壁となっていることに触れたが、それを乗り越えて初めて、変化する市場への対応が可能となる。

 たとえば、サービスの設計においても、「この客室グレードならば、この程度で十分だろう」といった思い込みが根強く残っていることがある。しかし、現代の顧客はSNSやレビューサイトを通じて全国の宿泊施設を比較しており、期待水準はかつてとは比べものにならないほど高まっている。「価格が安いから簡素でもよい」「個人客も団体客と同じサービス提供方式で問題ない」といった固定観念では、顧客の支持を得るのは難しい。

 実際には、高価な設備や高級食材を用いなくとも、盛り付けの工夫や接客、提供タイミングといった体験設計によって、顧客満足度を高めている施設もある。重要なのは価格帯ではなく、「期待を上回る体験をどう実現するか」という発想である。

 館内のオペレーション全体を見渡すと、かつての団体客前提の方式が形骸化したまま継続されていることが少なくない。効率を重視するあまり、顧客にとっての体験価値が二の次になっている場合、個人客にとっては「期待とのギャップ」が不満となり、施設の評価に直結する。しかもその運営方法が「昔ながらのやり方だから」ではなく、「単に手間を省きたいから」という施設側の都合で続けられているとしたら、そのズレはより根深いものとなる。

 こうした状況では、サービスの基準が「提供者視点の効率性」に偏ってしまい、「顧客視点の体験価値」が後回しになる。その結果、個人客からの評価が伸びず、リピーターの獲得や口コミでの広がりも期待できなくなる。客層転換を本気で目指すならば、まずは今日滞在している宿泊客に正面から向き合い、施設全体を再設計する覚悟が必要である。

 もちろん、団体客の受け入れは今後も事業の柱として重要である。ただし、団体客と個人客を対立軸で捉えるのではなく、それぞれに応じた価値提供の方法を柔軟に組み合わせていくという発想が不可欠だ。旅館・ホテルの価値は、変化し続ける顧客ニーズにどう応えていくかで決まる。既成概念にとらわれず、一人一人の顧客視点から出発する経営こそ、真の変革を生む鍵となるだろう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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