帝国ホテルの経営方針 代表取締役社長 風間淳氏に聞く


風間氏

京都開業、東京再構築へ 「日本的価値観」軸に発展

 今年4月、帝国ホテルの社長に風間淳氏が就任した。宿泊、営業、経理、人事など各部門で実績を重ねてきた風間氏に、注目の京都開業への意気込みや、グランドホテルとしての将来像を聞いた。 

 ――12年ぶりの社長交代となった。

 「節目の年を迎えた今、良いこともあれば課題もあるのが実情だ。その中で私に求められているのは、経営の道筋を明確にすること。総支配人はお客さまと向き合い、私は会社と向き合う。役割を分けることで現場と経営双方の質を両立させる」

 ――来年春、帝国ホテル京都が開業を迎える。

 「開業を決意した時から祇園と共に歩み、共に発展するという思いでやってきた。また定保英弥会長(前社長)の念願でもあった。祇園の商いを守るため、あえて宴会場を設けていない。伝統に敬意を払いながら、祇園と共存していく構えだ」

 ――ホテルの特徴は。

 「なんといっても、国の登録有形文化財である弥栄会館の外壁を見える形で残して建てたことだ。歴史ある建物だけに、付加価値は高いが制限も多かった。周囲には2階建ての住宅が密集しており、重機の搬入も困難だったため、”残す”前提での解体工事は難航した。このレトロな雰囲気を、日本人にも外国人にも好意的に捉えてもらえるよう、見せ方を工夫したつもりだ」

 「弥栄会館の壁面を飾っていたテラコッタのレリーフの保存、再利用も進めてきた。このテラコッタのルーツは愛知県常滑市にある。実は東京の2代目本館(通称:ライト館)を建設した際には、れんがやテラコッタを製作する直営工場を常滑に設けており、関わった職人の多くが弥栄会館のテラコッタを手掛けていたことが分かった。まさに、同じ窯を共有した縁。テラコッタが引き寄せた出会いといっても過言ではないだろう」

 ――建て替え予定の帝国ホテル東京の現状は。

 「当初の計画は、現在見直しを進めている。時間をかけて構築してきた長期計画だが、時代の変化が再構築の必要性を突き付けている。ただ、建て替え自体を断念する考えは一切ない」

 「客室やサービスアパートメント、賃貸住宅・オフィスといった複合開発に加え、隣の拡張エリアには宴会場とNTT都市開発と共同で宿泊特化型ホテルを計画中だ。当社が運営を担うが、帝国ホテルとは異なる新ブランドで、客室単価は帝国ホテルを上回る想定。現在の帝国ホテルブランドでは実現が難しい、”ラグジュアリーの進化形ホテル”を描いている」

 ――人材について。

 「着実に確保できている。京都開業に向けては、1年前から採用を実施。現在は、東京と大阪で実務研修を進めているところだ」

 「当社では常に『従業員満足』を起点に据えている。従業員そのものが商品であり、従業員の幸福なくして顧客満足も企業成長も得られないからだ。今年、経産省などが認定する『健康経営優良法人』に4年連続で認定。中でも特に優れた企業に与えられる『ホワイト500』にも初選定された」

 ――独立系ラグジュアリーホテルコレクション「ザ リーディングホテルズ オブ ザ ワールド」(LHW)に加盟している。グランドホテルとして国内外にどう魅力を発信していくか。

 「東京のほか、京都も加盟している。LHWへの加盟は世界的な高級ホテルの審査基準を満たした証であり、海外富裕層にも訴求できる強み。現在、日本に進出するホテルの多くは外資系のグローバルホテルチェーンと提携関係にあり、どの国や地域でも一定水準以上のサービスを受けられる一方、画一的な接客になりやすい側面もある。当社は地域に根差し、歴史や建築に裏打ちされた『物語性』を有するホテル。LHWのプラットフォームを活用し、帝国ホテルならではのブランドストーリーを発信、存在感を示していく。同時に、135年にわたり培ってきたサービス力と商品力を基盤に、グローバル市場における競争力強化を図る」

 ――目指すホテル像は。

 「社長就任以来、一貫して掲げているのは『日本的価値観』を大事にしたホテルづくりだ。空港は清潔で無臭、街にはごみ一つ落ちていない。落とした財布でさえ戻ってくる―。これらは、日本人にとって当たり前のことだが、外国人からすれば驚くようなことであり、それが評価されている。私たちは、日本に長年暮らす外国人や日本人などの日本的価値観を当たり前とする人にこそ、評価されるホテルを目指したい。そうすれば、自然と外国人からの良い評価も得られるはずだ」


 かざま じゅん 1986年明治大学商学部を卒業後、同年帝国ホテル入社。2011年ホテル事業統括部長、15年取締役執行役員企画部長などを歴任。22年代表取締役常務、23年同専務を経て、現職。62歳。

 【聞き手・編集部 溝部あゆ美】

 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒