
逆境をチャンスにー旅館の再生プラン
中小旅館・ホテルにおいて、チェックイン後や夕食後の自由時間をどのように充実させるかは、顧客満足度を左右する重要な要素である。前回は、経費配分の見直しを通じた体験価値の向上について述べたが、今回は空間設計に焦点を当てたい。
まず、館内のパブリックスペース、とりわけ談話室やラウンジの活用が鍵となる。多くの宿では、こうした空間がロビー周辺に形式的に設置されてはいるものの、夜間は施錠されていたり、手入れが行き届かず活用されていなかったりすることが少なくない。しかし、これらの場所を「滞在価値を生み出す空間」として再設計することで、他施設との差別化に大きく寄与する。
たとえば、長野県にある宿では、かつての読書室を改装し、山岳文化に関する資料や登山道具、地元アーティストの作品を展示するミニギャラリー兼ラウンジとして再生した。地域文化に自然に触れられる空間として、静かな人気を集めている。
また、団体客の減少によりロビーラウンジの利用が減っているのであれば、思い切って個人客向けのくつろぎ空間へと用途転換するのも一案である。岐阜県のある宿では、応接セットを撤去し、カウチソファや読書灯を配置して静かな読書スペースとして運用している。さらに、フリードリンクや軽食をセルフで楽しめるコーナーも併設し、チェックアウト後の余韻を過ごす場所として定着している。
客室についても、見直すべき点は多い。特に、テレビの存在は、再検討の余地がある。若年層を中心としてテレビ視聴の習慣が薄れてきており、その代替として動画配信サービスに対応したAV環境の整備が求められている。最近では、HDMI接続が可能なモニターやプロジェクターを導入し、NetflixやYouTubeを視聴できる客室を整備する宿も増えている。
予算に限りのある中小旅館・ホテルであっても、「空間」と「体験」の価値を丁寧に再構築することで、大手にはない個性と魅力を顧客に提供することができる。小さな工夫の積み重ねによって、唯一無二の宿づくりを目指したい。
(アルファコンサルティング代表取締役)