八芳園、創業以来最大のリニューアルで「生涯式場」へ進化 2030年に総売上130億円目指す


 株式会社八芳園(東京都港区)は9月17日、半年を超える休館および改修を経て10月1日にグランドオープンすることを発表した。リブランディングのテーマは「継承と創造」。同社取締役総支配人の関本敬祐氏は「旗艦店である八芳園がエリアプロデュース企業へ変革を起こすためのスタートそのもの」と位置付け、2030年までにグループ年間総売上130億円達成を目指す方針を示した。

「並婚礼」戦略でブライダル依存から脱却へ

関本取締役総支配人

 

 八芳園は2020年のコロナショックを機に事業ポートフォリオの転換を加速させている。関本氏は「2013年9月期の年間婚礼実施組数は2016組、売上高94億円だったのに対し、2024年9月期は1491組、売上高95億円。着々と婚礼依存型の事業モデルからの脱却が進んでいる」と説明した。

 今回のリニューアルでは「並婚礼」という考え方を導入。従来の婚礼事業にとどまらない新たな展開として、人生のあらゆる節目に寄り添う「生涯式場」を掲げ、ライフイベントプロデュース事業へのアップデートを図る。

 2024年9月期の事業状況では、婚礼事業が前期比106%となった一方、イベントセールス事業は同133%と大きく成長。マイス(MICE: Meeting, Incentive, Convention, Exhibition)案件の強化やショールームイベントへの戦略変更などが奏功した。レストラン事業、空間デザイン事業、ギフト関連事業、自治体連携事業、DX推進事業など、その他事業分野でも成長の兆しが見えているという。

 「組数ではなく結婚式の価値を実感いただくことで高単価での婚礼事業運営を進め、その他多事業での収益化を目指す」と関本氏は説明。2030年のグループ総売上目標達成の最大の目的として「1人当たりの給与支給額年平均5.5%アップの実現」を挙げた。

 

「日本の、美意識の凝縮」をコンセプトに環境配慮型施設へ

生まれ変わった外観

 

 創業以来最大規模となる今回のリニューアルは、「日本の、美意識の凝縮」をコンセプト、「継承と創造」をテーマに掲げている。2043年に迎える八芳園グループ100周年へ向けて施設の利活用を見直し、環境配慮型施設としての機能も強化した。

 リニューアルでは、バンケットを15会場から11会場へと削減しながら1会場当たりのキャパシティを拡大。庭園と建物の調和を取り戻し、交流の場としての質を高める改修を行った。さらに、本館において「ZEB Oriented」の認証を取得した。これは宴会場を用途とする建物としては国内で先駆けとなるものだという。

 「空調熱源や空調機器の高効率化」「照明のLED化」「断熱強化」「高断熱性ガラスの導入」などの施策により、2025年8月19日に認証取得を実現。本館正面のファサードなどに木材を多用することで、CO2の吸収・貯蔵効果も実現している。

 

水墨画×組子のコラボレーションで「光風庭伝」誕生

組子アート

 メインロビーは、リブランディングのコンセプトを象徴する空間として生まれ変わった。高さ約4メートルにおよぶ組子アート「光風庭伝」が設置され、エントランスから建物へのアプローチも変更。すべての来館者が日本庭園の景色に触れてから入館できるルートになっている。

 「光風庭伝」は、水墨画家の小林東雲氏と福岡県大川市の組子職人・木下正人氏のコラボレーションによる作品だ。「松」「竹林」「太陽」「月」など、八芳園の庭園に息づく景色を描いた水墨画を組子細工で表現している。

 関本氏は「メインロビーで皆様をお迎えする新しい顔は、光風庭伝と名付けられました。本作品は松を中心に据え、光の移ろい、風の息吹、庭に宿る自然の力強さ、そして訪れる全ての方々の幸せへの願い、数々の職人の技によって表現をいたしました」と説明した。

 メインロビーの中央には、福岡県大川市の創作家具職人・西田政義氏による巨大なシンボルツリーも設置された。八芳園の庭園の象徴である「松」をモチーフにしたこの作品は、土台の石垣から結び目のような枝まですべて木で作り上げられている。

シンボルツリー

 

MICE強化のための「CLUB FLOOR」新設

5階STUDIO KOKU

 

 今回のリニューアルでは、八芳園の日本庭園を望む会員制特別フロア「CLUB FLOOR」を新設した。5階には「STUDIO KOKU」と「LOUNGE KOKU」、6階には「HALL HAKU」と「BAR HAKU」を配置し、多彩な楽しみ方で特別な時間を提供する。

 「STUDIO KOKU」では、全長約20メートルの壮大なLEDウォールがダイナミックな視覚演出を可能にし、印象的なプレゼンテーションやイベントを実現できる。「HALL HAKU」は、シンプルで洗練された雰囲気の空間で、様々なビジネスイベントに対応可能だ。

 「CLUB FLOOR」へは、企業向け会員サービス「CLUB HAPPO-EN for Business」の会員のみが利用できる専用エスカレーターでアクセス。メインロビーを経由することなく直接進むことができる。エスカレーターを上がった先には、庭園を一望することができる専用の「ROOFTOP TERRACE」がある。

 また、多様な文化的・宗教的背景を持つゲストにも安心して食の体験を楽しんでもらえるよう、ムスリム対応専用のセントラルキッチンを新設。NPO法人日本ハラール協会による認証制度「ハラールフードサービス施設認証」の取得も予定している。

 

4階_ROOFTOP TERACE

6階_BAR HAKU

 

五感を刺激する「インスピレーションサロン」でウエディング体験を進化

 婚礼事業においては、新たに「インスピレーションサロン」を設置した。視覚、触覚、聴覚、嗅覚、そして味覚の五感を刺激し、顧客自身のひらめきを大切にすることで、これまで以上の体験価値を感じてもらう新たなアプローチを展開するという。

 関本氏は「インスピレーションサロンを軸に、体験型の打ち合わせへと進化をいたしました。視覚、触覚、聴覚、嗅覚、そして味覚の五感を刺激し、お客様自身のひらめきを大切にすることで、これまで以上の体験価値を感じていただける新たなアプローチを展開してまいります」と語った。

 サロンでは、VRを通じてリアルな披露宴の様子を体験する「HAPPO-EN EXPERIENCE SHOWCASE」、花材やコーディネートを実際に目で見て触れて選ぶことができる装花アトリエ、シェフが目の前で提案を行い、メニューを味わいながら料理の打ち合わせが行える「シェフズキッチン」などを導入。オリジナルで制作された音楽と香りにも包まれた空間となっている。

インスピレーションサロン

 

「CLUB FLOOR」で特別なウエディングサービスを2026年4月から開始

 さらに、「CLUB FLOOR」では2026年4月から新しいウエディングサービス「BY HAPPO-EN」の提供を開始する予定だ。各ジャンルのプロフェッショナルによる特別なサービスで、顧客の思いに寄り添いながら、指名により八芳園内外から専門家が集結し、専属チームが誕生するという。

 加えて、世界的なファッションブランド「TOMOKIKOIZUMI」のデザイナー小泉智隆氏と、2025年3月にオープンした八芳園初の衣装ブランド「The Bridal Boutique KOTOHOGI by HAPPO-EN」のコラボレーションによる、「CLUB FLOOR」をイメージした特別な新作ドレスも発表された。

 関本氏によると「小泉氏の日本独自の感性と鮮烈な色彩美、八芳園が大切にしてきた婚礼文化と日本の美意識が世界のファッションシーンに融合し、2つの会場、『STUDIO KOKU』と『HALL HAKU』をイメージした新たなドレスが誕生します」とのことだ。

ブライダルイメージ

6階_HALL HAKU

 

自治体連携とJR東日本との協力でエリアプロデュースを推進

八芳園洋菓子店

 八芳園は、白金台の拠点にとどまらず、福岡天神や京都東山など全国に展開しているが、2025年9月にはJR東日本と「共創パートナーシップ協定」を締結。白金・高輪エリアを全国各地の文化発信の中核拠点・体験の場とし、「国際交流拠点」としてのエリア価値向上を目指す。

 9月12日には高輪ゲートウェイ駅直結の「NEWoMan TAKANAWA」に「割烹 BUTAI」と「八芳園洋菓子店」の2店舗を同時オープンした。「割烹 BUTAI」は岩手県産の栗材を用いた一枚板カウンターや聚楽壁風の壁面など、日本の伝統素材を活かした設えの中で、「江戸」をテーマにした日本料理を提供する。「八芳園洋菓子店」は八芳園初となるパティスリーで、約100種のオリジナルスイーツを展開している。

 すでに今年6月には、白金・高輪エリアで「祭ジャパン」を開催。全国各地の祭りチームが参加し、ステージでの披露や街の練り歩きを実施。また全国各地の郷土料理やソウルフードを、八芳園シェフが新しい解釈を加えた「新郷土料理」として提供した。

 関本氏は「新しい街だからこそ、しっかりと文化を作っていくことが重要です。長年この地に根差し文化づくりに携わってきた私たち八芳園だからこそできることがあると思っています。白金台八芳園のリニューアル、そしてJR東日本様との協定を通じ、白金・高輪エリアをエリアプロデュースの中核拠点へと育ててまいります」と意気込みを語った。

割烹BUTAI

 

先進技術の導入でホスピタリティを向上

 八芳園は、リニューアルに合わせてDXやAI技術の導入も進めている。「インスピレーションサロン」や宴会での料理や飲み物の運搬には運搬ロボットを導入し、スタッフが顧客と接する時間を増やしてホスピタリティの向上を目指す。清掃には窓拭き・床掃除のそれぞれ専用の掃除ロボットを導入し、作業時間の大幅削減も実現した。

 また、タッチパネル型の大型「スマートAIボード」を設置してスタッフの打ち合わせ環境も改善。さらに、全社員にAIアシスタントを配布し、資料作成や調べものにかかる時間や作業の効率化に取り組んでいる。

 八芳園は2043年の100周年に向けて、日本の美意識と文化を次世代に継承し、世界へと発信していくための礎を築くことを使命としている。「いつまでもあり続ける」存在として、今回のリニューアルを通じて新たな一歩を踏み出した。

八芳園庭園

 
 
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