日本の着物をボーダーレスに リメイクで伝統美を未来へ しろくま着物


セパレート式の「しろくま着物」

ウェイバーズインターナショナル
しろくま着物

 日本の民族衣装として、折々で日本人の生活を彩ってきた「着物」。生活習慣の変化もあり、日常生活はもちろん、冠婚葬祭でも着物を着用する人は激減。親世代などが使っていた着物の多くが、再び袖を通されないままが廃棄されている。一方で、縫製の技術はもちろん、刺しゅうや染め、織りの伝統技術を伝える古い着物は、外国人を中心に関心が高い。日本のアンティーク着物という財産をエシカルに活用しようという取り組みがある。ウェイバーズインターナショナル(大阪市、片山身和子代表)が展開する「しろくまプロジェクト」だ。

セパレートで誰もが気軽に

 同社では、国内で集めたアンティーク着物を選別し、正絹で状態の良いものを巻きスカートと上着からなすセパレート式の着物にリメイクした商品「しろくま着物」として製品化。観光施設向けに卸すだけでなく、ECサイトで直接販売を行っている。


セパレート式で気軽に着用できる

 国内で毎年100万着強のアンティーク着物が廃棄されているという現実を前に、伝統技術・文化の未来への伝承と、日本文化への関心が高い外国人への着物のマッチング、文化発信を目指しての取り組み。その事業の軸となっているのは、日本人の「MOTTAINAI」精神だ。従来の着付けの技術や着方では、現代の生活には合わなくなっていることから、アンティーク着物という日本の文化資源を最大限に生かしつつ、現代に調和した形に再構築した。

 しろくま着物の特徴は、正絹のアンティーク着物を活用しているだけではない。独特の美しいシルエットや正絹着物の風合いや織り模様はそのままに、ワンタッチ式の帯ベルトを含めて5分程度で着られるのが一番の特長だ。中には襦袢(じゅばん)替わりのシャツを着用、帯ベルトも結んだ形にできあがっているため、着付けを知らなくても1人で着ることができる。

 セパレート式であることから、着席したままでも着用できるため、従来の着物では着ることが難しかった車いす利用者や高齢者でも着ることができるのもうれしい。

 さらには着物も帯もさまざまなサイズに対応していることから、外国人を含めたサイズインクルーシブを実現している。

 しろくま着物として利用が難しい品質のアンティーク着物や帯も、ワンピースや帯地を使ったショルダーバッグなどとしてリメイクし、無駄なく活用する。

 従来、日本の着物の特長は、サイズの可変性と再利用のしやすさにあった。着丈や身幅の自由が利き、また糸を解けば1枚の布に戻り、汚れや破れなどを避けて子ども用の着物に作り直したり、座布団や小物づくりに使ったり、最後まで無駄にすることなく大切に使うことができた。SDGsという言葉が生まれる前から、その考えを具現化し、環境に配慮した衣類文化であった日本の着物文化。これに新たな価値を与えるしろくま着物にぜひ注目してほしい。

B型事業所と着物収集拠点 全国で協力企業を募集
応援団として認定も

 廃棄される運命にあったアンティーク着物に新たな価値を吹き込んでいる同社だが、しろくま着物が「エシカル」である理由はそれだけではない。

 第一には、糸ほどきなどのリメイク工程の一部を就労継続支援B型事業所に、適正な報酬で委託している点だ。障がい者等の就労先であるB型事業所だが、利用者の報酬が低く、自立支援につながりにくいとの課題がある。

 同社では、フェアトレードの観点から適正な報酬を支払うことで、障がい者の雇用の安定と収入向上、やりがいにつながる仕組みの構築も目指している。さらにリメイクで出た着物の端切れはB型作業所に無償提供。アクセサリーなどの材料としてもらうことで、収入を増やす後押しをする。

 同社では自立支援を加速させるべく、作業を受託するB型事業所を全国各地に増やしたいと考えており、現在、事業所の紹介を呼び掛けている。

 さらに同社では、しろくま着物を活用し、長期入院の子どもたちを支援する取り組みも行っている。長期入院の子どもたちは、生まれてから病院から出たことがなかったり、ベッドで寝たきりだったりするため、晴れ着での七五三参りなどが難しい。

 そこで同社では、寄付を受けた子ども用の晴れ着をしろくま着物のノウハウを使ってセパレートなどの形にリメイク。必要に応じて減菌などを施して、病院内の車いすやベッド上でも着用できる着物を用意し、晴れ着姿の記念写真撮影など、家族と病気の子どもたちの思い出づくりをサポートしている。

 子どもの晴れ着は大人用の着物よりも数が少ないため、同社では大手製薬会社の協力などを受けながら、着物の寄付を集めており、現在さらなる協力事業者も求めている。


協力企業には「しろくま応援団」のプレートを寄贈する

 さまざまなアイデアやネットワークでしろくまプロジェクトに協力した企業には「しろくま応援団」の表示も贈呈。環境や社会にやさしい、本物の「エシカル企業」として、国内外にもアピールできるだろう。

体験用貸出や日本土産用に

 着物体験施設の多くでは、比較的安価で、水や汚れに強く、簡単に洗えるポリエステル製の着物が主流だ。また通常の着物は、着崩れを直すのに知識が必要という問題点もある。誰もが気軽に本物を体験できるしろくま着物は、外国人の着物体験に新しい可能性を開く。

 大阪・心斎橋に今年5月にオープンした、日本文化体験施設「道―Samurai Armor&Kimono Experience Osaka」でも、本物の甲冑(かっちゅう)着用体験などと共にしろくま着物を使った着物体験プログラムを用意している。正絹の美しいアンティーク着物を着たままで、立礼式の茶道体験や書道、殺陣などをその道の専門家による指導の下体験できる日本文化プログラムは珍しい。プログラムの限られた時間の中で着物の伝統に触れられ、また動きやすくもあることから、インバウンド客から好評だという。


道で、しろくま着物を着て茶道を体験する外国人

 レンタル利用だけでなく、自分で着用できることから、帰国後も伝統的な着物を着たい外国人のニーズにも合致、日本土産としての活用可能性も広がる。セパレートのため、上着と巻きスカートをそれぞれ洋服と組み合わせ、自由にアレンジした着こなしも楽しめる。


アレンジスタイル

 すべての製品にはシリアル番号入りの真贋(しんがん)保証タグが付いており、品質と信頼性を担保。「本物の日本文化」を提供したい観光事業者にとっては管理や差別化が容易だ。シリアルナンバーの入った着物はメンテナンスも受けられる。


しろくま着物の真贋タグ

 「しろくま着物をきっかけに、日本のアンティーク着物の伝統技術や美しさを知って親しんでほしい。そこから本当の着物への関心を高めてもらえれば」と片山代表。

㈱ウェイバーズインターナショナル しろくま着物事業部
〒530-0041 大阪市北区天神橋3-5-3
https://www.wavers.co.jp/shirokuma-lp1.html


詳細はこちら


関連キーワード
 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒