
私の視点 観光羅針盤
ここ数年、日本の民泊制度は大きな転換点を迎えている。特に国家戦略特区を活用した「特区民泊」は、2015年に大阪府・大阪市で開始され、当初は都市部の宿泊不足を補う切り札として期待されたが、近年は撤退や規制強化が目立つ。大阪市では2025年7月末時点で6千件以上の特区民泊が認定されているが、住民トラブルを背景に寝屋川市をはじめ8市町が制度からの離脱を検討。大阪市でも新規申請受け付けの停止が議論され、制度全体の見直しが現実味を帯びている。また、東京では、豊島区が営業日数を従来の年間180日から84日へ半減、墨田区が平日の営業を原則禁止とする条例改正を準備する等、地域特性に即した制限強化が加速している。
こうした動きの根底にあるのは、生活環境悪化への住民の強い不安だ。国土交通省の調査によれば、民泊に関する苦情の約4割は「騒音」、約3割は「ゴミ出し・マナー違反」に集中している。観光客受け入れ拡大と住民生活の調和を欠いた結果、制度そのものの存続が危ぶまれる状況となった。
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