
昨年に続いて今年も、「四国こんぴら歌舞伎大芝居(第38回)」を鑑賞するため、高松空港をめざした。「オリジナルお土産セット付観劇券」は千穐楽(せんしゅうらく)を1部・2部の同日通しで、宿泊は、本連載でも公約した「琴平グランドホテル 桜の抄」を「エースJTB」から予約した。
千穐楽の朝は、役者がそろって餅つきをするという。現存する日本最古の芝居小屋・金丸座には、おふるまいを目当てに大勢の歌舞伎ファンが詰めかけた。お着物姿のご婦人や晴れ着の娘さんもいてにぎやかだ。
お茶子さんに導かれ客席へと進むと、「千葉さん!」と大きな声がかかった。JTBの大塚雅樹専務が、夫人を伴い鑑賞に訪れていたのだ。東京でもなかなかお会いできないのに、琴平で会えるとはビックリ。満員御礼の混雑のなか、ゆっくりあいさつができなかったのが悔やまれた。
今回の見どころは中村獅童さんによる、2人の息子さんとの共演だ。4歳と7歳の幼い坊やが、一生懸命に覚えただろう台詞(せりふ)と台詞回しに、場内が沸いたのは言うまでもない。良い歌舞伎役者の条件は「一声・二顔・三姿」というから、今後の成長が楽しみだ。
獅童さんの舞台は4年前、バーチャルシンガー・初音ミクとの共演「超歌舞伎」を、京都・南座で鑑賞して以来のこと。伝統芸能らしからぬペンライトが光る客席と、客層の若さに驚いた。そのためか心なし、昨年に比べて子連れ家族や若者の姿が客席に多いように感じられた。
2泊した桜の抄が、これまた良かった。前回、泊まった「湯元こんぴら温泉華の湯 紅梅亭」も重厚感にあふれて素晴らしかったが、金丸座へは少し距離がある。ここ桜の抄は歩いてすぐで、なかでも23室のみの「別邸初音」が居心地がよい。有名な演目「義経千本桜」に登場する”初音の鼓”が、名の由来だそう。和モダンの明るいインテリアでベッド仕様、かけ流し温泉露天風呂付きの「初音プレミアム」は、特におすすめだ。金刀比羅宮ビューの客室からは、参詣道の石段が望めて風情がある。
食事も絶品だった。桜の抄の料理長・山口和孝氏は、令和6年春に黄綬褒章を受章し、現代の名工にも選ばれた腕前。彩りよい山海の幸は、地元の銘酒・金陵の純米大吟醸「煌(きらめき)」によく合った。讃岐国らしく追肴(おいざかな)は、うどん7種から選べる。朝食ブッフェも品数豊富で、連泊でも舌が飽きなかった。
さて、芝居も湯宿もさることながら今回最大の喜びは、琴平グランドホテルの近兼孝休会長に1年ぶりで再会できたこと。4月4日の初日から20日千穐楽までの期間、気の抜けない日々だったはず。それが疲れも見せずに、私どもに気遣いくださった。感謝の念に尽きない。
最終日は金刀比羅宮をお参りした。守り札は「工場安全」や「工事安全」、「園芸豊作」、「養殖蕃栄」、「選挙必勝」など21種もある。迷った末に筆者が選んだのは、「会社繁栄」。96年に設立した「有限会社千葉千枝子事務所」は、来春30周年を迎える。近兼会長や同行の旅行会社ウエンズ・西鳥羽洋子さんら先輩がたを見習って、生涯現役で頑張ろうと心に誓った。
(淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)