日観振の「デジプラ」とは? 事業推進グループ・森岡順子観光DX共創部長に聞いた


日本観光振興協会の森岡順子観光DX共創部長

日本観光振興協会の森岡順子観光DX共創部長

誘客や消費の促進、需要の平準化など、地域が抱える観光の課題を踏まえ、データに基づいた観光地経営の高度化が求められている。日本観光振興協会(日観振)は、自治体、DMOなどによる戦略的な観光地経営を支援しようと、「デジプラ」の活用を推進している。同協会事業推進グループの森岡順子観光DX共創部長に「デジプラ」について聞いた。

自治体、DMOの振興計画策定を支援する戦略ツール

――日観振の「デジプラ」とは何ですか。

観光地経営の課題解決につながる観光DXをサポートするためのデータ、戦略ツールの総称で、「日本観光振興デジタルプラットフォーム」の通称です。観光庁の支援やコンソーシアムに参画する企業の協力を得て整備を進めてきました。

――具体的には。

大きく分けると、「観光情報データ」と「観光マーケティングデータ」があります。

前者の「全国観光情報データベース」は、都道府県や市区町村などの協力で整備しており、全国の観光スポットや観光施設、イベントなどの情報約12万件が登録されています。このデータを基に、旅行者向けの観光ポータルサイト「JAPAN 47 GO」で日本語と英語で観光情報を発信しているほか、グーグルへの情報提供を開始し、グーグル検索やグーグル・ビジネス・プロフィールを通じて国内外の旅行者に観光情報を発信できる環境が整いました。

後者の「観光マーケティングデータ」については、自治体やDMO、観光事業者などに向けて、マーケティングのデータマネジメントプラットフォーム「全国観光DMP・高度化地域DMP」を構築し、昨年10月から本格運用しています。現在、都道府県、市区町村、DMO、観光協会、ホテルチェーンなど約150団体・社が利用しています。

――マーケティングデータを整備した背景は。

観光分野では、データ戦略やEBPM(データに基づく政策立案)という言葉が浸透するなど、マーケティングツールであるDMPやBIツールの導入も進んできました。しかし、多くの場合、データを見て終わってしまうのが現状です。必要なことはデータに基づく分析で地域の課題解決につなげていくことです。

――「全国観光DMP・高度化地域DMP」とは。

データの基礎は、「全国観光情報データベース」と、観光や地域経済に関する政府の統計、当協会や企業がオープンにしている調査データ、ビッグデータなど約30のマーケティングデータです。これらを基に、地域における訪問、宿泊、消費などの観光動向や、観光客の属性、地域の魅力などをダッシュボードに可視化し、観光振興に関する分析・レポートを提供します。

DMPでデータ分析、「観光DX検定」も創設

――DMPの分析をどう生かすのですか。

まずは、自治体やDMOのプロパー職員による観光振興計画やアクションプランの策定、予算折衝の根拠となるレポートづくりに役立てていただきたい。市場や外部環境の分析、SWOT分析、STP分析などは知識・経験がないと難しく、外部の業者に任せてしまうこともありますが、当協会の「全国観光DMP・高度化地域DMP」は、最新データを簡単な操作で活用でき、低コストでの運用が可能です。

――デジプラの施策の一環で、「観光DX検定」を創設しました。

データに基づき地域の観光戦略を立案・実行できる人材を育成、認定するプログラムです。初年度の今年は、eラーニングの機会を提供した上で、12月に「初級」試験を実施します。「初級」はデータを読み解くことができる人材、来年度に試験を実施する「中級」は事業計画の起案・実施ができる人材をイメージしています。自治体、DMOの職員、観光を学ぶ学生の皆さまなどに受験していただきたいです。

【観光経済新聞 副編集長 向野悟】

日本観光振興協会の森岡順子観光DX共創部長
日本観光振興協会の森岡順子観光DX共創部長

「拡張機能」で地域に最適化

日観振の「全国観光DMP・高度化地域DMP」の「基本機能」は、観光分析の基礎データとなる宿泊、人流、消費のデータを見える化し、地域の強み・弱みなどを把握するSWOT分析、ターゲティングなどのSTP分析、KPIの効果測定などに活用できる。

具体的には、地域の人口推移、産業構成などの環境分析や、宿泊・人流・消費の動向分析をはじめ、属性情報に基づく国内外の来訪者分析、地域の観光資源別の分析、類似地域との観光動向比較などが可能となる。

さらに「拡張機能」では、地域に最適化したカスタム分析環境を構築できる。地域独自のダッシュボード、需要予測システム、経済波及効果測定システムなどの機能を活用できる。
2024年度には、観光庁事業を活用し、「拡張機能」の実証事業を3地域で実施した。

実証事業の事例としては、群馬県(群馬県観光物産国際協会)が、独自のダッシュボードで人流データとキャッシュレス消費データを統合したほか、スポット単位での滞在状況を見える化、県内全市町村の需要予測と経済波及効果測定に取り組んだ。

福井県越前市(越前市観光協会)は、県の統計データと市独自のデータを統合して過去6年分の観光動向を見える化。兵庫県姫路市(姫路観光コンベンションビューロー)は、姫路城の日次入場者数やインバウンド観光動向の見える化を試みた。

日観振は今後も、地域の参画による実証事業、コンソーシアムを組む企業との連携で機能の充実を進める。例えば、「高度化地域DMP・拡張機能」では、生成AIによるデータ分析機能やレポート作成機能の実装に向けて、地域と連携して実証事業を行う予定。

「観光DX検定」、12月4日に「初級」試験

日観振は、地域において観光DXを実践できる人材の育成に向け、「地方創生データサイエンティスト検定(観光DX検定)制度」を創設した。12月4日に「初級」検定試験をオンライン試験のIBT方式で行う。近く受験申し込みの受け付けを開始する。

観光DX検定は、データに基づく地域の観光戦略を立案・実行できる人材を育成・認定する制度。検定受験を通じて、(1)データ分析スキルの習得(2)戦略立案能力の向上(3)キャリアアップの機会(4)地域観光への貢献―につなげる。

対象は、自治体やDMO、商工会議所、商工会、観光関連事業者、観光について学んでいる学生など。「初級」の受験料(予定、税込み)は一般6600円、学生3300円。

「初級」は、データの見方を理解し、簡単な分析ができるレベル。2026年度から実施予定の「中級」は、データから観光地の動向が分析できるレベルで、個別の事業計画の立案・実施ができるイメージ。27年度から実施予定の「上級」は、分析結果から観光戦略を作成でき、アドバイザーとして活動できるレベルを想定している。

検定試験を前に、「初級」eラーニング講座も提供している。

詳細は特設サイト(https://kankou-exam.nihon-kankou-dx.info/)から。

 
 
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