
今年のツーリズムEXPOジャパンのポスターをバックに
「ツーリズムEXPOジャパン2025愛知・中部北陸」が9月25~28日、愛知県常滑市の「Aichi Sky Expo(愛知スカイエキスポ=愛知県国際展示場)」で開かれる。本紙は開催を前に、恒例の主催3団体のトップらによる鼎談を実施。好調な訪日インバウンド、回復途上の海外旅行、そして人手不足やオーバーツーリズムといった課題を抱える国内旅行。それぞれの現状と未来、そしてツーリズムEXPOジャパンが果たすべき役割について語っていただいた。
現在の観光・旅行市場の動向の受け止めは
――(司会=本社・森田淳)現在の観光・旅行市場の動向について、どのように捉えているか。国内旅行、海外旅行、訪日インバウンドを含めた現状認識をお聞きしたい。
髙橋 最近よくインタビューで観光の現状を一言でどう表すかと聞かれるが、私は「好調、堅調、低調」と答えている。
訪日インバウンドは「好調」。昨年、史上最高を記録したが、今年はそれをさらに上回る勢いで伸びており、これはこのまま順調に推移するだろう。
国内旅行は「堅調」。昨年、旅行者数がコロナ禍前の水準に戻り、旅行単価の上昇によって消費額はさらに伸びた。今年もその勢いは続いている。
問題はアウトバウンドで、これは「低調」だ。回復は徐々に進んでいるが、コロナ禍前の水準には及んでいない。昨年が65%程度の回復で、今年は伸びてはいるものの、それでも70%程度にとどまっている。このアウトバウンドの回復が、われわれ旅行業界にとって今の最大の課題だ。
今回のツーリズムEXPOジャパンは、アウトバウンドをどう回復させるかがテーマの一つ。インバウンドにおける地方への誘客分散や、人口減少社会における国内旅行の活性化といった、それぞれの分野が抱える課題にもスポットを当て、解決の糸口を探る場にしたいと考えている。
――JATAはアウトバウンド回復へさまざまな取り組みをしている。
髙橋 「もっと!海外へ」キャンペーンを、旅行業界にとどまらず、空港会社、航空会社などと共に業界を挙げて展開している。主要企画として、新パスポート取得サポートを実施、また、タレントの岩田剛典さんに「海外旅行アンバサダー」に就任していただき、われわれのプロモーションに協力いただいている。岩田さんにはツーリズムEXPOジャパンの会期中、9月27日土曜日のトークショーにも登壇いただく予定で、海外旅行の素晴らしさを伝えていただければと期待している。
日本旅行業協会の髙橋広行会長
最明 国内旅行の受け入れ側の視点から見ると、宿泊施設や公共交通機関における人手不足が深刻化し、旺盛な需要に応えきれない場面が顕著になっている。
観光は健全な生活インフラの上で成り立つ事業だ。この問題を解決するには、観光行政だけでなく、国土交通行政や、経済産業省、農林水産省なども巻き込んだ取り組みが不可欠だと考えている。
地方の公共交通では、生活路線への補助に行政の意識が向きがちで、観光の方に目が行きにくいという課題も散見される。生活と観光、双方の問題を一体で捉えていくべきだと考える。
現在は三大都市圏で活発に人が動いているが、それ以外の地域でも多くの人を受け入れるためには、しっかりとした体制づくりが必要。われわれは宿泊、交通など各業界団体とも連携し、観光の現場から声を上げていく。
日本観光振興協会の最明仁理事長
猛暑で国内旅行は苦戦、訪日は気候変動で分散化に期待
――この夏の旅行者の動きを各地の事業者に聞くと、猛暑や万博が影響し、苦戦しているところが多い。
最明 万博にいらっしゃった方が、その足で四国や瀬戸内、九州へ向かうケースはインバウンドで見られるが、日本人の国内旅行の場合、一つの目的地を決めて訪れることが多く、周遊にはつながりにくい面がある。
旅行者一人一人の目的意識に応えることの重要性が増している。先日、熊本の観光キャンペーンの会議に参加した際も、「自治体が作るテーマ性のない観光ルートは失敗しがちだ。これからは、旅行者が『何を知りたいか』『何を体験したいか』という目的に沿ったツアーを造成しなければならない」という話があり、非常に印象的だった。
物価高の影響で、旅行の距離や時間が短くなる傾向も見られる。旅行1回当たりの消費額は上がっているが、宿泊日数は伸び悩んでいる。インバウンド需要が宿泊費を高騰させている側面もあり、これが日本人の国内旅行に影響している可能性があり、これは少し心配だ。
ただ、受け入れ側の取り組みのレベルは非常に上がっていると感じる。あとは景気を良くして、皆がもっと旅行に出かけられる環境を作ることだ。
蒲生 インバウンドは、月別のデータで過去最高を更新し続けている。ただ、この勢いがいつまで続くかは注視が必要だ。地方での旅行者1人当たりの消費額が来年は減るのではないかという報道も出るなど、潮目が変わる可能性も念頭に置かなければならない。
人数は大きく落ち込むことはないだろうが、これまでのような伸びが続くかは分からない。
ECサイトの普及や、日本の小売店が海外に直営店を出す動きもあり、日本での旅行者の購買の形も変化している。
そして、一番大きな変動要因は天候だろう。今まで「四季がある国」としてPRしてきたが、最近は「暑い時期」と「寒い時期」に二分化しつつある。
日本政府観光局の蒲生篤実理事長
髙橋 この夏の厳しい猛暑を経験した訪日客が、今後は夏を避けて日本を訪れるようになるかもしれない。今まで「場所の分散」「時期の分散」と言われてきた中で、これで旅行の時期の分散化が進み、オーバーツーリズムの緩和につながれば、それはそれで良いことだと思う。
蒲生 7月5日に天災が起きるといううわさが広まり、特に香港ではキャンセルが発生した。旅行者数の減少には、漫画の描写に風水師の話が加わったことも影響したようだが、幸いにも客足は戻ってきている。
今年の訪日客数は4千万人に達するだろうという見方があるが、来年以降、さらに伸ばしていくためには、リピーターを増やすこと。そしてそのためのより魅力的なプロモーションを行うことが必要だと考えている。
今年は初の愛知県開催、北陸の復興応援も
――今年のツーリズムEXPOジャパンの概要や見どころについて。
髙橋 11回目にして初の中部での開催。北陸も含めて9県が連携する「広域連携」での開催だ。
大きく四つの目的を掲げている。第1に、このエリアにまだ眠っている隠れた魅力を国内外に発信すること。第2に、セントレア(中部国際空港)の国際線復活を後押しすること。第3に、北陸をエリアに加えることで、被災地の復興を支援し続けるというメッセージを発信すること。そして第4に、BtoBの商談をさらに充実させることだ。
BtoBは、MICEと教育旅行にスポットを当てて強化する。
世界にはさまざまなツーリズムEXPOジャパンのようなイベントがあるが、われわれはBtoCとBtoBの両方を併せ持つハイブリッド型をこれからも展開する。
最明 会場がセントレアに隣接しているという地の利を生かし、国内外からの来場者に向けて空港の認知度を高め、新たな日本の玄関口として活用いただくことが大きな目標だ。
インバウンド4千万人時代、さらにその先を見据えると、成田、羽田、関空以外の国際空港をもっと活用することが必要不可欠だ。その意味でセントレアは非常に重要な拠点となる。
今回は海外からのバイヤーにも、商談だけでなく、会場内のブースを巡るツアーに参加していただく。産業観光発祥の地である中京地区の製造業や発酵文化、陶磁器といった地域のコンテンツに触れてもらうことで、新たな発見やビジネスチャンスが生まれることを期待している。
観光で日本の良いものに触れてもらい、帰国後も日本の製品を買い続けていただく。ツーリズムEXPOジャパンがそうした日本のショーケースとしての役割を果たせればとも考えている。
髙橋 海外からは80の国と地域が参加し、小間数で言うと400小間を超えている。これは、日本の海外旅行市場に対する海外からの熱い期待の表れだ。
一方で、地元の愛知、中部、北陸からの出展も250小間を超えている。ゴールデンルート上にありながらスキップされがちな名古屋を起点に、このエリアを周遊してほしいという、訪日インバウンド誘致にかける地元の皆さまの強い思いを感じており、われわれはその期待に応えなければいけない。
鼎談の様子
――名称に北陸が入っていることに強いメッセージ性を感じる。
最明 「被災地を忘れない」というメッセージを発信し続けることが大事だ。富山、金沢、福井などはにぎわいを取り戻しているが、能登半島はまだまだこれから。復興につながるようなメッセージをしっかりと発信しなければならない。
髙橋 復興支援の一環として、現地の新聞社の協力も得て、北陸の物産展なども企画している。
――JNTOはツーリズムEXPOジャパンとの合同開催として、訪日旅行商談会「VISIT JAPANトラベル&MICEマート」を今年も開催する。
蒲生 3日間全てに人を配置するのは、特に地方の団体や自治体にはハードルが高いだろうと、今回は3日間のフル出展だけでなく、1・5日間の枠を新たに設けた。
また、海外のバイヤー向けに、中部・北陸地域を中心とした12コースのファムトリップを用意している。事前にツーリズムEXPOジャパンのブースを訪れ、いろいろと学習してもらう機会をつくり、その上で現地をご訪問いただくといった取り組みも行う。
海外旅行振興や持続可能な観光地域づくりに注力 「休み方改革」にも期待
――国内、インバウンド、アウトバウンドの振興、そして観光産業と地域の持続可能な発展に向けての各団体の重点的な取り組みをお聞きしたい。
髙橋 われわれ旅行業界としては、やはり回復が最も遅れているアウトバウンドの活性化にまずは力を入れたい。
今回のツーリズムEXPOジャパンでは、動員目標を10万人と設定し、そのうち一般来場日である土、日の2日間で1日3万3千人、合計6万6千人の来場を目指している。80カ国・地域が参加するブースを見て、海外旅行の魅力を再認識していただき、それが実際のアウトバウンド需要、そしてセントレアの活性化につながることを期待している。
インバウンドに関しては、海外のバイヤーに、この中部・北陸エリアの潜在的な魅力を発見してもらい、新たな周遊ルートの開発につながるようにしたい。
国内旅行も同様に、ジブリパークや高山といった有名な観光地だけでなく、まだ知られていないエリアを知ってもらい、その活性化が図れればと考えている。
余談だが、会場である愛知スカイエキスポの1日当たりの過去最高動員記録は、B ’zのコンサートの3万3千人だそうだ。われわれは2日連続でこれに挑戦することになる。岩田剛典さんや、愛知県出身で俳優の瀬戸朝香さんのトークショーなども企画しており、目標達成を目指したい。
最明 インバウンドの目標は2030年までの6千万人。今のお客さまの1・5倍を迎えることになり、そのためには受け入れ側の体制づくり、そして何より地域に住んでいらっしゃる方々の理解が不可欠だ。一部では観光に対する嫌悪感も出始めている。
われわれは、全国に300以上あるDMOが、住民の側に立って観光の仕組みや受け入れ体制を構築すべきだと考えている。これを「スチュワードシップ」という言葉で表現し、活動の柱の一つに据えている。
また、これまでプロモーション目的で使われることの多かった人流データなどを、むしろ地域住民の方々に観光の現状や効果を理解していただくためのツールとして活用することも考えている。
「人材育成」「観光DXのサポート」「観光地域づくり」の3本柱で、持続可能な観光地経営を支援する。
今回のツーリズムEXPOジャパンでも、観光DXや、災害時にも事業を継続するための「フェーズフリー」という考え方をテーマにしたセミナーを開催しようと、今、準備を進めているところだ。
蒲生 EXPO内で行うインバウンドシンポジウムを成功させたいと考えているが、個人的に非常に期待しているのが、その後に開催される「休み方改革シンポジウム」。働き方、そして休み方が変わることは、日本の観光の現状を変える大きなきっかけになるはずだ。
観光需要の平準化という観点からインバウンドが注目されているが、日本人自身がもっと自由に国内外を旅行できるような労働環境も必要だ。今回のシンポジウムはよく言われる「働き方改革」ではなく、「休み方改革」としている点が特徴だ。
北陸の復興においても、インバウンドの役割が非常に重要だ。かつて台湾から多くのお客さまが来ていたように、北陸には高いポテンシャルがある。「昇龍道」のようなコンセプトで、中部・北陸エリアが一体的なゾーンとして再び注目されるような仕掛けも必要だろう。
観光事業者・地域へのメッセージ
――ツーリズムEXPOジャパン2025の開催に向けて、観光事業者や地域の方々へのメッセージを。
< strong>髙橋 ツーリズムEXPOジャパンには、海外からの出展者、国内の事業者、そして一般の来場者と、さまざまな立場の方が参加される。それぞれの目的にしっかりと応えられる運営をしたい。
海外の出展者からはBtoB、特にMICEや教育旅行マーケットへのアプローチを強化したいとのニーズがあったので、日本のバイヤーとの商談やネットワーキングの機会を充実させている。地元、中部・北陸の皆さまの「インバウンドを呼び込みたい」という思いに応える場も作る。
「『休み方改革』で日本の観光を変える!」といったインパクトのあるテーマを掲げたシンポジウムも開催する。
観光業界全体が盛り上がるきっかけになるよう、このツーリズムEXPOジャパンを成功に導きたい。
そして開催に当たり協力をいただいている愛知県をはじめ、地元の方々には心から感謝を申し上げたい。この成功をもって、皆さまへのご恩返しをしたいと考えている。
最明 会員企業や団体の皆さまに、ぜひ足を運んでいただき、出展者とのコミュニケーションを深め、新たな商品造成のヒントをつかんでほしいと願っている。
今回は東京、大阪から距離があるため、送客側の事業者が多い両都市圏からどれだけの人に来ていただけるか。これが成功の一つの鍵だと思っている。私もさまざまな場で情報発信をし、多くの方々に来ていただけるよう、努力したい。
蒲生 今回のツーリズムEXPOジャパンは、「休み方改革」という大きな流れを作ろうとしている愛知県の大村秀章知事が、同県での開催に向けてかなり力を込めて進めてこられたものだ。われわれはしっかりと応えていかねばならない。
愛知、中部・北陸の皆さまと協力して、成功に向けて尽力したい。
今年のツーリズムEXPOジャパンのポスターをバックに