
お宿の経営者に考えていただきたいことがあります。それは「このまま時間が過ぎれば、自分のお宿はどうなるのか」という未来予測です。
経営においても、人間の心理は大きく影響します。満室が続いたり、お客さまからの高評価が重なったりすると、「この調子が続く」と楽観視してしまいがちです。
一方で、稼働率の低迷や資金ショートの危惧、スタッフの離職が続くと、経営者は現実から目を逸らしたくなります。「とりあえず今月を乗り切ろう」「来月には何とかなるだろう」という思考に陥り、根本的な問題解決を先延ばしにしてしまいます。
経営において「現状維持」は存在しません。建物は経年劣化し、競合他社は新しいサービスを導入し、お客さまの期待値は年々上がっています。何もしなければ、確実に相対的地位は下がっていきます。
「今の状態でも何とか営業できている」「投資をするより現状で我慢した方が安全」―こうした思考は、実は緩やかな衰退への道を歩んでいることを意味します。
そこでまず、現在の問題を放置した場合の未来を具体的に描いてみましょう。
例えば、客室の水回り設備の老朽化を放置すれば、お客さまからのクレームが増え、口コミ評価が下がり、予約が減少し、収入が減って設備改修の資金も確保できなくなる―こうした悪循環が見えてきます。
また、人手不足を「仕方がない」と放置すれば、既存スタッフの負担が増し、サービス品質が低下し、離職がさらに進み、新規採用も困難になる。この先にあるのは、営業継続すら困難な状況です。
この「負のスパイラル」を図や文章で可視化してください。その未来に向かって進む覚悟があるなら、何もする必要はありません。しかし、それが「何としても阻止したい未来」であるなら、今すぐ行動を起こさなければなりません。
大きな問題も、細かく分解すれば解決可能な要素に分かれます。
設備投資の問題であれば、「資金確保」「優先順位の整理」「建築士・デザイナー・施工業者の選別」「営業を続けながらの工事計画」など、個別の課題に分けられます。
人材不足の問題も、「採用手法の選択」「労働条件の見直し」「既存スタッフのモチベーション管理」「業務効率化によるワークロード軽減」など、それぞれ異なるアプローチが必要な要素から構成されています。
問題を分解できれば、解決策も見えてきます。全てを1人で、一度に解決する必要はありません。
時間をかけて、必要に応じて専門家の助けを借りながら、一つずつ課題をクリアしていく。このプロセス自体が、負のスパイラルから正のスパイラルへの転換点となります。
重要なのは、完璧な解決策を最初から求めないことです。仮説を立て、小さく試し、結果を検証し、修正を加える―この「トライアンドエラー」のサイクルを習慣化することで、確実に状況は改善していきます。
お宿経営の未来は、今この瞬間の思考と行動によって決まります。問題を直視し、分解し、一つずつ解決していく勇気を持つこと。そして、完璧を求めず、試行錯誤を続ける習慣を身に付けること。これこそが、困難な時代を乗り越え、持続可能なお宿経営を実現する鍵なのです。
明日ではなく、今日から始めましょう。あなたのお宿の未来は、今のあなたの決断にかかっています。
失敗の法則その68
負のスパイラルに陥っているにもかかわらず、現状維持が可能だと思っている。
その結果、見えないふりをしていた現実に突き当たる。
そこで、課題を細分化し、仮説とトライアンドエラーを繰り返して改善していこう。
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