日本の若者の海外旅行熱が冷めていると言われて久しい。内向き志向が広まっていることを学生と接して実感する。
そんな日本人とは裏腹に、日本で学んでいる外国の若者の海外へという意欲の旺盛さに驚いてしまう。ある専門学校で観光関連の講座を担当しており、中国、香港、アメリカ、韓国などからの留学生と話す機会が多い。夏休み明けの授業で、海外旅行について尋ねてみた。裕福な家庭の若者たちらしく、この学校で学ぶ前から海外には行っていたという。
たとえば、中国・上海の男子学生は、「これまで何回もヨーロッパに行った。中国とは全く違う景色や、文化、食事などに出合い、刺激的で楽しかった」と話した。
また、香港の男子学生は、日本には5回ぐらい来た。全国を巡るたびに、日本が好きになり日本語を勉強し、この学校に入学したと話したうえで、「卒業後は、日本の旅行会社で働きたい」。流ちょうな日本語で夢を披露してくれた。この学生は社会人として、働いた後に日本に留学した経緯がある。
一方、日本人の男子学生とのやり取りには、ちょっとがっかりさせられた。彼はこう言った。「海外は英語ができないから、不安で行きたくない」。
これに対し、筆者は「英語なんかできなくても、買い物やホテル、移動などで困らない程度の旅行会話を覚えれば大丈夫。今はスマホの自動翻訳を利用できる便利な時代だから」と言っても反応は鈍かった。また、経済的に難しく旅行費用をためることができないと、漏らした学生もいた。
若者に限らないが、日本人のパスポートの保有率はコロナ禍前の24%前後から2024年は17%の前後に減っている。
筆者が学生時代には、小田実の『何でも見てやろう』や沢木耕太郎の『深夜特急』など海外見聞記、放浪記がベストセラーになり、多くの若者がこれらの本に触発され、バックパッカーとして海外に旅立った。筆者もアメリカ横断の貧乏旅行を懐かしく思い出した。
観光庁と外務省、日本旅行業協会(JATA)は官民挙げて海外旅行を後押しするキャンペーンを展開している。2024年のインバウンドが過去最高を更新したのに対し、日本人出国者数は上向いているとはいえ、コロナ禍前の年間約2千万人には及ばず1300万人程度にとどまっているためだ。
物価上昇が激しいうえに、円安基調が続いている。特に若者は懐に余裕がなくなっている。アルバイトの時給は上がっているが、それ以上にモノが高くなっているという学生の嘆きも耳にする。
そのため、JATAは「新パスポート取得サポートキャンペーン」を実施している。新たなパスポートの取得者に対し、加盟旅行社が割引や次回旅行時に使えるポイントを付与し、海外旅行を後押ししている。1人当たり約1万円に相当するという。
この夏休み、若者は海外へ飛び立ったのだろうか。筆者自身のアメリカ貧乏旅行やその後の取材を含めた旅を振り返ると、海外旅行はどんな形であれ、驚きの連続だった。新学期が始まり、日本人の学生に海外旅行の素晴らしさを伝えることにしている。
(日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)




