
人気の中田屋のきんつば
秋は五穀をはじめ芋、栗、葡萄(ぶどう)、柿など大地の実りの季節。大豆、小豆など豆類も収穫期を迎える。
いずれも菓子作りに欠かせないが、必須なのは、かつて先物取引で「赤いダイヤ」と呼ばれた小豆。特に北海道・十勝産小豆は全国の菓子店でもてはやされ、九州の店でも「北海道産小豆を使ってます」と胸を張る。
羊羹(ようかん)、最中、饅頭(まんじゅう)、餅、おはぎなど大量に使われるが、そのものを味わうお菓子に「きんつば」がある。
漢字で「金鍔(つば)」と書くように元々は刀の鍔をかたどった丸型。今は四角に切って6面に小麦粉の薄衣をつけて焼く直方体が主流である。
なかでも絶品と評判なのが金沢の中田屋の「きんつば」。創業90年余は百万石の城下町では新参組だが、干菓子の「長生殿」など数ある伝統銘菓をしのぎ、金沢を代表する銘菓になっている。
人気の中田屋のきんつば
中田屋がきんつばに取り組んだのは初代ののめり込みに始まる。厳選した北海道産大納言小豆に砂糖と寒天を加えて舟(パット)に流し固めて四角に切って刷毛で小麦粉の薄衣をつけて一つずつ焼き上げる。
手で割ると、つややかでふっくらした大粒の小豆がびっしり。まろやかな食感とともにかすかな塩に引き立つ上品な甘さがホロリと舌にくずれる。
きんつばの発祥は江戸時代前期の京都。米粉の生地の中に餡(あん)を入れて丸型に焼いた餅で、表に鍔を描いた「銀つば」の名だった。
それを今も継承するのが富山県高岡市戸出(といで)で慶応元年創業の天谷菓子舗。小麦粉生地にこし餡を入れ、丸く平たく包んで焼く。「剣鍔(けんつば)文様付円型きんつば」を統一商標に数店が製造販売していたが今は3軒に。
天谷菓子舗では鍔の模様
「銀つば」が江戸では、皮は米粉から小麦粉に、形は丸から四角に、名称も銀から金に変わる。東京で丸型は日本橋で江戸時代創業の榮太樓總本舗の「名代(なだい)金鍔」くらいである。
四角きんつばの発祥店といわれるのは、兵庫県神戸市で明治10年創業の本髙砂屋。看板菓子の「元祖髙砂きんつば」は、小豆餡を羊羹状に流し固めて四角に切って薄く小麦粉で周りを塗って軽く焼き上げる。金沢・中田屋のきんつばはこれにならったという。
(紀行作家)
【メモ】「きんつば」=中田屋(076・252・4888)1箱6個入り税込み1458円。「きんつば」=天谷菓子舗(0766・63・0159)1袋5個入り税込み750円。取り寄せ可。
(観光経済新聞25年9月15日号掲載コラム)