
後藤会長(=写真中央右)、金田社長(=後藤会長の右)、ウィルソン会長(=写真中央左)、ペンCEO(=ウィルソン会長の左)
株式会社西武ホールディングスは9月16日、連結子会社の株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド(SPW)が、北米や欧州を中心に展開するライフスタイルホテルブランド「エースホテル」を運営するAce Group International LLC(AGI)および同社の子会社等の全株式を取得すると発表した。買収額は最大9,000万ドル(1米ドル=約147円のレートで約132億円)程度。SPWが米国に設立した100%出資の新会社Ace Hotels Worldwide Inc.を通じて実施し、2025年9月中に手続き完了を見込む。これにより西武グループは国内外で運営するホテル数を86から94に増やし、「日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン」の実現に向けた体制を強化する。
「エースホテル」の確立された世界観とカルチャーを最大限尊重
今回の株式取得によりSPWは、1999年に米シアトルで誕生したエースホテルの確立された世界観やカルチャーを最大限に尊重しながら、西武グループならびにSPWの開発サポートによりエースホテルの拠点拡大を図っていく。同時に、エースホテルが築き上げてきたブランディングノウハウを取り入れることで、SPWの開発力や運営力をさらに高め、グローバル競争力の強化を目指す。
エースホテルは「その土地の文化との共生」を重視し、単なる宿泊施設ではなく「人とカルチャーが混ざり合う場」をつくることを目指したホテルブランド。街の歴史や社会背景を踏まえたデザイン・アート・音楽を融合させ、独創的で趣向を凝らしたインテリアデザインや地元アーティストによるイベントやワークショップを通じて、地域と調和した空間づくりや活気ある創造的な場を提供するホテルとして、世界中で多くのファンを獲得している。
現在、エースホテルは日本国内では京都に、アメリカにおいてはニューヨークのブルックリン、カリフォルニアのパームスプリングス、シアトルで4ホテルを展開。さらにカナダのトロント、オーストラリアのシドニー、ギリシャのアテネにも展開し、世界の主要都市に出店している。
西武グループの長期戦略とシナジー効果
西武グループは2024年5月に「西武グループ長期戦略 2035」を発表。同戦略では「Resilience & Sustainability -安全・安心とともに、かけがえのない空間と時間を創造する-」をありたい姿とし、「トータルステークホルダーサティスファクションの向上」を目指している。その実現のため、ホテル・レジャー事業では”日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン”への成長を掲げ、既存の運営施設のパフォーマンス向上とともに、国内外250ホテル体制(国内100、海外150)に向けたネットワークの構築を進めている。
SPWは、2017年にオーストラリア・シドニーに拠点を置くSeibu Prince Hotels Worldwide Asia Pacific(旧・StayWell Holdings)の事業を取得し、本格的な海外展開を見据えた基盤整備を行ってきた。それに続く今回のエースホテルの買収は、グローバルホテルチェーンとしての成長をより一層加速させる狙いがある。
SPWとエースホテルのシナジー効果としては、以下の3点が挙げられる。
- 出店機会の拡大
- SPWが展開する国内外10ブランドに、ライフスタイルホテルブランド「エースホテル」が加わることでブランドラインナップが充実し、多様な提案を通じて出店機会を拡大できる。
- SPWは日本国内に加え東南アジアやオーストラリア、中東で、エースホテルは北米やヨーロッパにおいて出店経験や開発ノウハウ、パイプラインを有しており、それぞれが進出を目指すエリアに対し、相互にノウハウを補完し合うことで拠点拡大を加速できる。
- 顧客基盤の拡大
- 西武グループの会員組織「SEIBU PRINCE CLUB」は約252万人(2025年8月現在)の会員を有しており、この顧客基盤にエースホテルの利用者が加わることで顧客網を広げることが可能になる。
- エースホテルは西武グループの会員組織に参画し、幅広い層にアプローチができるようになり、双方でさらなる収益機会の拡大を目指す。
- エースホテルのブランディングノウハウの活用
- エースホテルのコンセプト設計やデザイン選定などのノウハウに加え、地域と調和し集客力の高いレストラン・バーの企画・運営ノウハウなどを吸収することで、日本をオリジンとするグローバルホテルチェーンを目指すSPWならではの新たな体験価値創出を目指す。
新会社の概要と今後の計画
今回の株式取得では、SPWの100%子会社となるAce Hotels Worldwide Inc.を新たに設立。この新会社がエースホテルを運営するAce Group Internationalの全株式を取得する。取得価格は最大9,000万ドル程度。
新会社の役員として、Ace Group Internationalより現会長のブラッド・ウィルソン氏、現CEOのクリス・ペン氏、SPWからは金田佳季社長に加え、現取締役常務執行役員の赤松衛一氏と現エグゼクティブリージョナルバイスプレジデントアメリカズの大住ヴィクター氏が兼務する。
両社の既存ホテルと開業予定ホテルを合わせると、101ホテルとなる。今後の開業予定ホテルとしては、SPWが日本国内において2026年3月に福岡プリンスホテル ももち浜、海外では主にベトナムにおいて2025年10月にプリンスホテルダナンをはじめとして、インドネシア・ジャカルタ、タイ・バンコクなど5つのホテルの開業を予定している。エースホテルでは2027年にエースホテル福岡の開業を予定している。
後藤高志会長「理念が合致したことが大きなポイント」
西武ホールディングス代表取締役会長兼CEO後藤高志氏は会見で、「西武グループにお迎えする新たなパートナーを発表させていただく。そのパートナーはライフスタイルホテルブランドとして世界的に知られるエースホテルである」と述べ、今回の事業取得により、「SPWが掲げる日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーンへの道筋が一層確固たるものになると確信している」と語った。
後藤氏は「エースホテルは街に根ざしながら作るホテルだからこそ、ホテルごとに見どころや楽しみ方が異なり、必然的に様々なエースホテルを訪れてみたい気持ちが高まる。ホテルを訪れること自体が旅の目的となる街のシンボルとしての役割を担っており、エースホテルがあることでその街を訪れたくなる街に進化させる力がある」と強調した。
また、「エースホテルは西武グループがグループビジョンや重要テーマとして掲げる地域との共生、感動の提供、訪れたくなる街づくりをまさに体現している」と評価。「グローバルホテルチェーンの実現には、両者のように理念が合致した者同士がパートナーとして手を組むことが何よりも大切であり、相互に高め合う関係を築いていけると信じている」と述べた。
記者からの質問に対して後藤氏は、「今回のエースホテルとの事業取得・連携については、何といっても一番大きいのは、双方の理念が合致したということ。エースホテルは土地あるいは文化との共生を非常に大切にしており、私どももグループビジョンにおいて『共に歩むこと』『共生』を、またグループ理念においても『地域社会の発展に貢献する』ことを掲げている。まさにそこのところで理念が一致したことが極めて大きなポイント」と説明した。
さらに今後のグローバル展開について、「数量的な拡大を志向するということではなく、やはり私どもが持っているおもてなしや共生、これはエースホテルも全く同じだが、そういったものをベースとしてやっていく。したがって、今後10年間の中で250という数字は、例えばマリオットだとかそれ以外のグローバルホテルチェーンに比べれば決して多い数字ではないが、アジア初のグローバルホテルチェーンで言えば、例えばザ・ペニンシュラだとかマンダリンオリエンタルだとか、そういったホテルが欧米にも展開し、競争的な優位性を確保し、それぞれのアイデンティティをしっかりと提供した上で競争優位性を確保している。我々とすればそういったことを我々のおもてなしの心、ホスピタリティ、あるいは土地や文化、歴史というものに対するリスペクトをしながら展開していきたい」と語った。
金田佳季社長「250ホテル規模へのネットワーク拡大を目指す」
西武・プリンスホテルズワールドワイド代表取締役社長金田佳季氏は、西武グループの事業概要と長期戦略、SPWの事業概要と成長戦略、エースグループインターナショナルの株式取得の概要について説明した。
金田氏によると、西武グループは不動産事業、ホテル・レジャー事業、都市交通沿線事業を中心に、プロ野球球団埼玉西武ライオンズの運営など、お客様の生活に密着した幅広い事業を展開。国内外に計89社のグループ会社を持ち、グループ全体で約2万1,000人の従業員を抱える日本有数の企業集団だという。業績については直近の2024年度は大型物件東京ガーデンテラス紀尾井町の流動化をし、営業収益は9,011億円、営業利益は2,927億円となった。
西武グループでは2024年5月に2035年度を見据えた長期戦略を策定。不動産事業をグループの中核に捉え、資産の流動化とその資金を活用した再投資を繰り返すキャピタルリサイクルを力強く推進することにより各事業の競争力を高めていく戦略へと舵を切っている。2035年度の営業利益は、グループ全体で1,000億円以上を目標に掲げ、成長ドライバーであるホテルレジャー事業の営業利益は430億円を見込んでいる。
SPWについては、前身となる箱根土地株式会社を1920年に創業し、現在では日本を代表するリゾートである軽井沢や箱根などにおいて事業をスタートさせたと紹介。その後、赤プリとして親しまれ一時代を築いたグランドプリンスホテル赤坂や、ワールドカップや世界選手権の開催実績がある苗場スキー場、フラノスキー場などの開発運営をし、100年以上にわたり地域に根差し共生しながら日本のレジャーを牽引する存在として時代をリードしてきたとした。
SPWは現在、国内外で86ホテル、31のゴルフ場、そして10のスキー場を運営。ラグジュアリー層をターゲットにし、ここにしかない格別な時間をお約束する国内のフラッグショップブランドザ・プリンスをはじめとして、海外にいながら日本のおもてなしと文化の息吹を味わえるブランド、ザ・プリンスアカトキなどを中心に10の幅広いブランドを展開している。
SPWの成長戦略として、「日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン」の実現に向けて、ホテル、ゴルフ場、スキー場など各事業所におけるパフォーマンスの向上と、250ホテル体制構築に向けたネットワークの拡大に取り組んでいるとした。特にネットワークの拡大においては、通常の新規出店に加え、今回のエースホテルの事業取得のようにM&Aなどの手法も積極的に検討し、出店を加速させていくという。さらに、世界に通用するインフラを整備するグローバル標準化と、SPWの強みをより一層強化する差別化を図ることで、競争優位性を確立し、日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーンを実現していくと述べた。
今回のエースホテルを西武グループに迎えた理由について金田氏は、「エースホテルはその土地の文化との共生を重視し、地域との調和や地域に貢献することを大切にする理念を持っており、当社のグループビジョンと一致していることが、今回の株式取得が合意に至った何よりも重要なポイントであり、エースホテルをパートナーとしてお迎えすることが実現した理由でもある」と強調した。
金田氏は最後に、「エースホテルの確立された世界観やカルチャーを最大限に尊重しながら、西部グループ並びに西部プリンスホテルズワールドワイドの開発サポートによりエースホテルの拠点拡大を推し進めていくとともに、エースホテルが築き上げたブランディングノウハウを当社に取り入れ、全てのお客様に新たな感動を提供してまいります」と語った。
ブラッド・ウィルソン会長「エースホテルと日本の深い縁」
エースホテルグループインターナショナル会長ブラッド・ウィルソン氏は、「エースホテルにとって、本日はまさに心躍る日である。これは多くの人々の努力と献身、そしてホスピタリティが最高の形でもたらすものへの共通の信念が集大成した一つの節目だ」と述べた。
ウィルソン氏は自身のエースホテルとの歩みについて、「エースでの私の歩みは2011年に始まり、この14年間でシアトルで生まれたシンプルでありながら革新的なアイデアから生まれたブランドを育てるという特別な機会に恵まれた」と振り返った。
そして、「多くの皆様がご存じないのは、エースの日本への熱い思いが、まさにその初期の頃に始まったということである」として、「エースの創設者アレックス・カルダウッドは、エースを作る前に自身の成長の多くの時期を日本で過ごし、日本の文化、デザイン、哲学、おもてなしへのアプローチに対して深い理解と敬意を育めた。そして私自身、キャリアを米国で日光ホテルとともにホテル開発に携わることで始まった」と日本との深い縁を語った。
「エースが長年培ってきた価値観、つまり職人技への敬意、手作りで、誠実なものへの理解、そして真のもてなしは心から生まれるという信念は日本のパートナーや友人の皆さんの心に響いている」とし、「2020年に著名な建築家・熊建吾氏とともにエースホテル京都を開業したとき、それはまるでふるさとに戻ったような感覚だった。このようなコラボレーションは日本文化に対する私たちの深い敬意を表したものだった」と述べた。
エースホテルの成長について、「過去10年間でエースは最初の28室だったシアトルのホテルから4大陸にまたがるホテル群へと成長を遂げた。しかし、物理的な拡大以上に、私たちの取り組みが数え切れないほどの人々の心に触れ、創造的なコラボレーションを生み出し、ロサンゼルスのダウンタウンからロンドンのショーディッチ、そして世界中の文化の中心地に至るまで地域活性化に貢献する姿を、私は目の当たりにしてきた」と成果を強調した。
西武グループの一員となることについて、「西武グループの一員となることで、エースは安定性とリソース及び当社のビジネスモデルをグローバルに拡大するための戦略的支援を得ると同時に、各エース施設を特徴付ける本物の価値と独立性を保つことが可能となる。私たちの取り組みを変えるのではなく、我々の伝統と可能性の両方を尊重する形でその規模を拡大していく」と述べた。
また、「後藤さん、金田さん、大住さん、赤松さんという我々と同じ理念を厚く信じ、正しい方法で事業を推進しながら、エースのグローバル展開に深くコミットしてくださるパートナーを見つけられたことを光栄に思う。西武プリンスホテルズワールドワイドが掲げる2030年までに250軒のホテルを展開するという企業目標の達成に向け、共に協力して取り組んでいくことを楽しみにしている」と期待を表明した。
クリス・ペンCEO「我々の独立した声を維持していく」
エースホテルグループインターナショナルCEOクリス・ペン氏は、「エースというのは、このホスピタリティの中で私が見るところ、クリエイティビティ、それから本物であること、本当の意味の人間同士のつながりということが我々の価値観であるということが分かっている。我々がやることの基礎にあるのはそれである」と述べた。
エースホテルの理念について、「エースはいつもユニークなことをやっている。まず、信念として、ホテルというのは文化的なつながりの場になり得ると思っている。そして空間として、見知らぬ人がコラボすることができるようになる。それから地元のコミュニティ、それから世界の旅行者の人たちが集まって意味のあることを作ることができる場がホテルであると思っている」と語った。
また、「我々は、ただ単に空間を提供するというだけで満足はしていない。我々がやるのは環境づくりであり、発見と創造性が花開くところである。今日、2025年時点でこのビジョンというのはこれまで以上に存在感とパワーを示している」と強調した。
そして、「過去5年間、我々はこのミッションを拡大してきた。大陸を越えて異文化を越えて拡大してきた。まずはエースホテル京都で文化的な複雑な統合をした。エースの精神と日本の素晴らしい文化の両者を統合し、そこでクリエイティブなエネルギーが生まれてくるのである。それからエースホテルトロントのデザイン、レストリクトというところにおいても同じことだ。エースホテルシドニー、これもサリーヒルズという地域で同じことが示されている。本物のコミュニティを作るということは、国境を超えるものだということを証明してきた」と述べた。
西武グループとの提携について、「本日の発表、プリンスホテルによる買収だが、それによって貴重なことが生まれてくる。これはこれをきっかけに、何十年も安定と安心が続くであろうということである。この提携関係があることによって我々は力を得る。それをもって我々のユニークさを維持する。そしてまたグローバルなビジョンを拡大していく。これは路線変更ではなく、適切な資源とサポートをもってこの旅路を加速化するということだ。この旅路はすでに我々は始めている」と説明した。
今後の展開について、「我々はエースに関して大きな志を持っている。それは西武の一部になり、金田さん、それからSPWに手を貸して、彼らが250件のホテルをグローバルに2035年まで開きたいと思っているミッションを持っているが、それのお手伝いをしたいと思っている。我々もこのような加速度的な拡大をやりたいと思っている」と意欲を示した。
一方で、「エースがクリエイティブな運営面において特別で自立性を維持するということに西武がコミットしてくださるというのは素晴らしいことである。我々は今後ともエース社の特徴である独立を志向するアプローチで運営を続けていく。ライフスタイル重視型のホテル業界で我々が差別化できるユニークさを維持する」と強調した。
さらに、「我々は今後とも活力ある都市や地域を求め、そこに出展し、世界で最も革新的なデザイナーたち、アーティストたちと一緒に仕事をし続ける。我々は初めてのお客様も一生お付き合いいただけるコミュニティの一員になっていただけるように、真のつながりを強化していく。でも今回は西武の戦略的な支持をいただくので、大きいことを目指すことができる」と述べた。
今後の出店計画として、「我々はすでにワクワクするようなプロジェクトを始めている。例えば福岡で出展をするし、それから我々は野心的な計画を持っており、より多くのホテルをアジア、ヨーロッパに開店していきたいと思っているし、継続的に北米でも開店を続ける。我々の本国の市場であるエースのコミュニティを作るという哲学を、文化首都に、世界の文化首都に持っていく」と語った。
会見でペン氏は、「4大陸での成長を望んでいる。欧州、これはロンドン、パリも含める。他の主要なグローバル市場の展開も考えている。そして、米国においても継続して成長していきたいと思う。マイアミやロサンゼルスといった都市に展開、出展していきたいと考えている。東京でも出展したいと考えている。これは私たちが常に持っていた夢の一つである。そして、期待をしている都市でもあるし、またシンガポール、メルボルンも考えている」と世界各地への出店意欲を示した。
左から、赤松衛一常務(SPW)、クリス・ペンCEO(Ace Group International)、ブラッド・ウィルソン会長(Ace Group International)、後藤高志会長(SPW)、金田佳季社長(SPW)、大隅ヴィクターVP(SPW エグゼクティブ リージョナル ヴァイスプレジデント アメリカ)
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】