
砂田氏
OTAが30日で立ち上がる時代に
私たちは何ができるのか
先日、旅行系テクノロジーの国際会議で「AIは今後どのように旅行業界を変えるのか」と問われました。大手事業者の経営層が「劇的に変わる」と口をそろえるなか、私は「大きくは変わらない」と答えました。なぜなら、新しい技術が普及するには技術の進化速度ではなく、人々がそれを受け止めるための”絶対的な時間”が必要だからです。
実際、OTAが始まってからすでに30年がたちますが、今なお「OTA化」が議論され続け、比率が少しずつ上がっているに過ぎません。変化には必ず時間がかかるのです。
とはいえ、AIがすでに可能にしていることは無視できません。
ホテル価格の入力やレベニューマネジメントはAIが自動で最適化できるようになりました。
チャットボットは単なるFAQ対応を超え、ゲストの嗜好を読み取り、提案まで行えるようになっています。画像生成AIは施設紹介写真を瞬時に補正・翻訳し、生成AIは旅程作成や見積もりまで自動化しています。
これらは中期的に人が費やす業務時間を大幅に減らし、業界の労働構造そのものを揺るがしていくでしょう。ただし、その浸透は急速には進みません。20年、30年という長い時間軸でじわじわと広がっていくと考えています。
重要なのは、この技術を武器に新しい挑戦者が一気に増える可能性です。これまで長年の人間関係の上でしか扱えなかった宿泊在庫や地域アクティビティが共有化され、誰もが利用可能になる未来が迫っています。
もしOTAが、巨額の投資と数年の開発ではなく、わずか30日で立ち上げられる時代が来たらどうでしょうか。既存の「常識」に縛られない若者が、旅行予約や体験のあり方を根本から作り替えていくはずです。
私たちが本当に考えるべきことは「どう既存の構造を守るか」ではありません。「どう新しいイノベーションに対応し、自らも仕掛けるか」です。
旅行は人の営みと不可分な産業だからこそ、守りに入った瞬間に世界から取り残されます。
AIによって業界の入り口が開かれつつある今こそ、挑戦者としての心構えを持つことが、すべての事業者に求められているのです。
砂田氏