
なにわ一水(島根県松江しんじ湖温泉、勝谷有史社長)は8月28日、嚥下(えんげ)機能の低下により旅行を控えていた人とその家族を対象に「えんげ食体験ツアー」を開いた。嚥下補助食品など栄養療法食品の開発を手掛けるニュートリー(三重県四日市市)との共同企画で、全国公募で選ばれた3組の家族を招待し、食事を通じて旅行の楽しさを知ってもらう機会を提供した。
嚥下は「食べ物や飲み物を飲み込むまでの動作」を指し、加齢や疾患により嚥下機能が低下すると誤嚥を引き起こしやすくなる。厚労省が発表した2013年国民健康・栄養調査によると、70歳以上のうち約24%が嚥下に関する不調を訴えており、また総務省の人口推計(25年)から、70歳以上の嚥下障害またはその予備群は約700万人に上る。
ニュートリーによると、嚥下障害への対応として、病院や介護施設では「ミキサー食」や「きざみ食」が提供されているが、「見た目がよくない」「何を食べているか分からない」といった課題があり、食欲がわかずに喫食量が減り、体力の低下につながるケースがあるという。また、食事が制限されることで旅行などの外出の機会が減り、次第に病院や自宅を中心とした生活に閉じこもりがちになる傾向もみられる。
同館では「見た目もおいしい嚥下食」をキーワードに、宿泊者に提供している会席料理と同じメニューを飲み込みやすく加工して提供。肉や魚介類などの食材とゲル化材をミキサーにかけた後、加熱・冷却し、ゼリー状に再形成した。監修は松江生協病院(松江市)の仙田直之副院長が務めた。
ツアーには、嚥下機能が低下した人を含む3組の家族のほか、医療・福祉従事者18人も視察として参加。嚥下食を食べた人からは、「家族と一緒に旅行に来て、同じ料理を楽しめたことがうれしかった」などの声が挙がった。
同館ではバリアフリーやユニバーサルデザイン対応を積極的に進めているほか、フードダイバーシティの実現にも力を入れる。「嚥下食は、宿泊日の4日前までにリクエストがあれば通常料理との置き換えが可能。現在対応している食物アレルギーやベジタリアンなどの多様な食ニーズにも嚥下食で置き換えできるのが当館の強み」(勝谷社長)。
見た目や味はそのままに、飲み込みやすく再形成した嚥下食メニュー(イメージ)