【地域創生と観光ビジネス83】星野リゾート初の山ホテル「LUCY尾瀬鳩待」開業! 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


 星野リゾート初となる山ホテル「LUCY尾瀬鳩待 by 星野リゾート」が、9月1日に開業した。場所は、尾瀬国立公園の玄関口の一つ、片品村の鳩待峠。その先行内覧会に先日、参加した。

 コンセプトは、「最高の尾瀬ハイクがはじまるホテル」。かつての老朽化した山小屋からは想像がつかないほど洗練された自然調和の2階建てに、全25室。内訳は4名定員のフォースルームが3室、ツインルーム10室、さらには「ドミトリー」と呼ばれる1名定員の小部屋が12室で構成される。ドミトリーも各室で充電できるようコンセントが配備され、Wi―Fiは無制限。コンパクトなセーフティーボックスが完備されているので貴重品の管理も万全だ。プライバシーが保たれるよう工夫がなされている。

 館内にはコインロッカーがあり、最小手荷物でハイクに臨める。また、共有ゾーンにはシャワーブースやウォーターサーバー、トイレはウォシュレット機能付き。私たちが旅先で気にするラストコンビニもある。軽食や飲み物も豊富にそろう「FOOD&Drink Station」は24時間利用が可能なセルフレジ対応と、これまでの山小屋の常識を覆した。

 LUCY(ルーシー)の名称は、これまで星野リゾートが展開した星のや、リゾナーレ、界、OMO、BEBに続く新たなホテルブランド。あの「日本奥地紀行」で知られる英国の旅行紀行家イザベラ・バードのミドルネームに由来する。「山をすべての人の旅先に」。その第1号となる山ホテルLUCYは、まさに心揺さぶるものがあった。

 自然保護運動発祥の地とも呼ばれる尾瀬は、昭和のブームで多くのハイカーが訪れ、深刻な環境問題に直面した。それを教訓に、ゴミの持ち帰りルールやマイカー規制を徹底したことで、美しい景観が保たれたのである。本州最大の山地湿原に、春はミズバショウ、夏にはニッコウキスゲ、秋にはエゾリンドウや草紅葉が楽しめる。

 群馬のほか福島・栃木・新潟の4県にまたがる尾瀬国立公園は、面積の4割を東京電力グループが所有し、さらに特別保護地域の7割を同社が占めている。木道の整備や修理、山小屋や休憩所の所有・運営などをグループ企業の東京パワーテクノロジーが行う。星野リゾートとのマネジメント・コントラクト方式で、おしゃれな山ホテルが実現したのである。筆者は今、科研費の総仕上げにエネルギーツーリズムに関する書籍を執筆中で、尾瀬は欠かせない存在でもある。

 さて、平成に入ると、ベビーブーマーを中心とした中高年者のトレッキングブームが巻き起こり、再び注目されるようになった尾瀬。だが、コロナ禍で世代交代が進む令和。何より若い世代の取り込みが大きな課題となっていた。片品村で座長を務める「尾瀬かたしな未来構想委員会」でも、たびたび話題になっていた。

 この先行内覧会で福井ゆう子総支配人は、マーケット構成をピラミッド図で示し、未登山者という潜在層の掘り起こしにLUCYが一役買うだろうと説明した。登山をしたことがないハイキング志向者や登山入門者に加え、新たな需要を掘り起こす。その使命を果たすことだろうと強く確信した。

 (淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子)

 
 
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