
前回のコラムでは外国人の地方訪問がまだ十分に進んでいないことに触れたが、地方に訪問してもらうには、まずその地域の認知度を上げなければならない。そのために多くの地域が魅力あるサイトの作成やSNSでの発信、国際観光展への出展などを行っているが、必要なのはその地域の「ならでは感」である。その地域を訪問しないと他では味わえない魅力をいかに見いだして発信していくかが重要となる。
「地方分散」とはあくまでも日本側の発想であり、事情である。京都が混雑しているから京都以外に行ってほしいといっても、京都に行きたい人は京都に行く。その地域に行ってもらうためには、その地域が京都と同等かそれ以上の魅力的な地域であると認識してもらうことが大事である。どこかの代わりではなく、そこがいいと旅行者に思ってもらわなければ、実際の訪問にはつながらない。
徳島県三好市の祖谷渓などは規模は大きくないが、植物で作ったかずら橋や大歩危などの渓谷の美しさもあり、「大歩危祖谷温泉郷」というブランドを作り、あえて「秘境」として売り出すことで、2007年から2024年までの17年で外国人旅行者数が40倍になった。しかしこのような規模の地域は宿泊施設や働き手の限界があり、今後の成長には課題がある。このような規模は小さいが魅力のある地方は、その発展形を規模の拡大に求めるのではなく、いかにその地域のその地域らしい魅力を維持できるかという持続的観光に重点を置いた方がいいと考える。
キャリング・キャパシティ(Carrying Capacity)という考え方がある。「物理的、経済的、社会文化的環境を破壊することなく、また、訪問者が許容できないほど満足度を低下させることなく、1カ所のデスティネーションを同時に訪れることができる最大人数」(UN Tourism)という意味である。
このキャリング・キャパシティを踏まえた地方観光地のあり方が今後は重要になり、それを踏まえた取り組みが結果的に日本を魅力のあるデスティネーションにしていくことになる。
(帝京大学経済学部観光経営学科教授 吉村久夫)