
本格的に企業再生の道に入って21年がたつ。21年前、クライアント第1号になっていただいた会社の創業者が亡くなった。駆け出しの企業再生屋のことを心底信頼してくださり、共に切磋琢磨して経営改善を行った日々のことが懐かしさと悲しみを伴ってあふれてきた。
その折、経営の教科書として2人で何度も読み返した書籍がある。一倉定(いちくらさだむ:1918年4月~1999年3月)先生の「経営の思いがけないコツ」だ。
先生のことを知ったのは、今から25年くらい前、ひょんなことがきっかけだった。当時の私の毎日は庭掃除や植木の植え替え、河川掃除など土方作業と雑用の繰り返し、肉体労働が生業だった。
そんなある日、「塩分を正しくとることが人間にとって一番大切だよ」と卵かけごはんに生しょうゆをたっぷりかけておいしそうに食べる大先達から頂いたのが「天日干し天然塩」1袋と「正食と人体」(一倉定著)だった。その後、一倉先生が著名な経営コンサルタントであることを知り、いくつかの著書を読みふけった。
その中で最も心と頭を刺激され、今でも折に触れて読み返すのは「経営の思いがけないコツ」だ。当時は今の仕事をやるつもりなど全くなかったが、過去の経営者時代を振り返り反省しきりだったことを覚えている。失敗から学ぶことの大切さを得心もした。
その著書の前書きには経営者にとって四つの大切なことが書かれている。(1)環境整備(清潔・整頓・安全・衛生など)。(2)ワンマン経営の徹底。(3)社長自らのお客さま訪問。(4)社長自らの経営計画書の作成、だ。
詳述するには紙面が足りないので、内容について興味のある方は、当時1万2千円の著書が今では中古で5千円くらいで手に入るので実物をぜひ手に取ってほしい。
その中から経営を数値化する際に最も有効な方法をひとつ紹介したい。
旅館ホテル経営者としては、売上・経費・利益・集客数などを正確に時系列でとらえることが必要だ。そんな時は、データを「移動年計グラフ」にしてみることをお勧めする(具体的な作成方法は、PC検索で親切な解説を見つけることもできる)。このグラフによって、繁閑や月々の営業日数の違いなどに影響されない経営数値の可視化が可能になる。また、投入した営業施策がうまくいったのかどうかを時系列で把握することも容易にできるようになる。慣れてくると、毎月簡単な年次決算が自らの手でできるようにもなる。
現在の仕事に従事するようになって、たくさんの経営者にこのことを勧めてきた。最近も30代の人材紹介企業の創業経営者から「金融機関の見る目が変わった感じがします」と、うれしい報告をいただいた。真面目に取り組めば数値の可視化の手ごたえをつかめるはずだ。
全ての経営者にとっての最大の責務は、事業の継続と雇用の確保だ。事業も雇用も12月31日や3月31日が到来しても途切れることなく続いてゆく。経営者としては、会計事務所や経理担当者から示される年次や月次のデータ把握だけではいかにも不十分だ。ぜひ、自社のいろいろなカテゴリーでの移動年計グラフを作成してみることをお勧めしたい。
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(EHS研究所会長)