
「何にもないところがセールスポイントです」
そう語るのは滋賀県奥びわ湖・尾上温泉「旅館紅鮎」の山本享平専務。
すぐ目の前が琵琶湖。全ての客室から広大な湖と、「神を斎(いつ)く島」と信仰される竹生島の景色を眺める。都会の喧騒とは無縁な閑静な地。癒やしを求めて訪れるシルバー層が顧客の中心だ。
「接客は付かず、離れず、出しゃばらず。“今風の宿”にせず、あえて昭和のイメージを維持しています」。館内は畳敷き(一部フローリング)。「お風呂の後に履くのはいやでしょう」と、スリッパは備えていない。
自家源泉を持ち、21度の冷泉が毎分300リットル湧出する。泉質はナトリウム炭酸水素塩泉。美肌をつくる作用や、婦人病、神経痛、リウマチなどへの効果があるそうだ。
温泉は大浴場と各客室で使用。大浴場は大理石の内風呂と御影石の露天風呂で、いずれも琵琶湖と竹生島の佳景を望む。
客室は全て半露天風呂付き。全室異なる仕様で、浴槽は重厚で風情ある御影石、近江らしく味わい深い信楽焼、木の香り漂うひのきなどさまざま。マッサージチェアを備えているのもうれしい。温泉は好みの温度に合わせて沸かしてもらう。
料理は夏に12種類、冬に18種類と献立が充実。近江牛づくし、鮎(あゆ)会席、鴨(かも)すきと、地元の旬の素材を生かした会席コースだ。今まで“裏メニュー”で出していたヴィーガン会席を、インバウンドも意識して表の献立に加えている。
個性を大切に、独自の「味わい」を磨き続ける宿で組織する「日本 味の宿」の代表も務める山本さん。宿のコモディティ化が進むといわれる中、「『味の宿』のような施設が今後ますます求められる」と、現在35軒の会員をさらに増やしたい考えだ。
【15室、1泊2食の料金は通常期1室2人、食事処利用で1人2万8600円から(入湯税150円別途)】
雄大な湖を望む客室。全室に温泉半露天風呂が付いている