【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 768】オールインクルーシブ導入戦略(2) 青木康弘


 オールインクルーシブを導入するにあたり、大きな課題となるのは人員体制とコスト管理である。ドリンクや軽食を常時提供するには運営負担が伴い、アクティビティを組み込むには新たな企画アイデアや人材が必要になる。こうしたハードルは施設規模の大小にかかわらず共通したものだ。

 もし導入にあたって難しさを感じるならば、段階的に取り組むことをおすすめする。たとえば、夕朝食時のドリンクをセルフサービスにして自由に楽しめる仕組みを整える、ラウンジで軽食やデザート、ソフトドリンクを提供する、あるいは地域の事業者と連携して体験プログラムを宿泊プランに組み込むといったことから始めるというやり方だ。すべてを自館で抱え込むのではなく、地域の事業者の協力を得ることで、無理なくサービスの幅を広げることができる。

 オールインクルーシブは工夫次第でスタッフの負担軽減やコスト削減につなげることも可能だ。チェックイン時の事前精算を徹底すれば、各部門での伝票処理やフロントでの集計業務を省力化できる。レストランではプラン内容を確認するための人員が不要となり、運営効率が高まる。宿泊客が夕食よりも食材原価率の低い軽食で満足すれば、食材コストの抑制につながる。オールインクルーシブ化により積極的な値上げも可能となり、結果的に売り上げに対する経費率を改善する効果も期待できる。

 料金設計においては利用実態を見込んだ値付けが欠かせない。飲み放題を導入しても、すべての宿泊者が大量に飲むわけではない。平均的な消費量を踏まえて設定すれば、過度なコスト増にはつながりにくい。グループ・団体客の飲み放題の注文率が低下している施設の場合、オールインクルーシブ化によって平均的なドリンク消費量を加味した料金設定とすることで収益改善が可能となる。従来の飲み放題と比べ、飲酒しない宿泊客に不公平感を与えにくい点も利点の一つである。

 宿泊客にとって滞在時の追加料金を気にせず楽しめるという安心感は大きな価値であり、それが満足度の向上やリピート率、ひいては宿泊単価アップにもつながっていく。大型施設は一律のサービスを打ち出しやすく、中小施設はコンセプトに応じた独自の設計が可能である。施設の規模を問わず、ブランドや立地特性に合ったサービスの導入を行うことで差別化でき、地域内で選ばれる存在となることができるだろう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 
 
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